大阪桐蔭「藤浪世代」に危機感を抱かせた「西谷監督交代の噂」 白水健太を中心に「春夏全部勝つしかない」と燃えた (5ページ目)
やがて、ある噂が選手たちの間で流れてきた。
「オレらが甲子園に行かれへんかったら、危ないかもしれんって」
要は、西谷の監督交代にまつわる噂だ。甲子園から遠ざかっているといっても、期間はたった3季。しかし、力があった前チームの負けがネガティブな空気を生んでいたのか。そんな噂話に選手たちの反応はどうだったのか。白水が当時の記憶を呼び起こす。
「マジで? やばいやん」
「西谷先生って、いま甲子園何勝なん?」
「たぶん14勝」
「オレらで春夏全部勝ってプラス10くらいにしたら、しばらくいけるんとちゃう?」
「ほんまやな。じゃあ、やっぱり連覇や」
白水は言う。
「よく高校野球で、選手が『○○監督のために』『○○先生のために』っていうのがあるじゃないですか。大阪桐蔭って『西谷先生のために』って表立っての感じはないんです。でも、信頼関係はめちゃくちゃある。根も葉もない噂だったと思いますけど、『甲子園に行って優勝や!』って気持ちになりましたね」
白水は甲子園で戦ったなかでももっとも厳しい戦いとなった春の準々決勝の浦和学院戦で、9回に勝ち越しのタイムリー。夏はセンバツの再現となった光星学院(現・八戸学院光星)との決勝で貴重な先制弾。チームに必要なコマに徹した男の大仕事もあり、春5勝、夏5勝ときっちり10勝をプラスし、史上7校目、大阪桐蔭としては初となる春夏連覇を成し遂げたのだった。
(文中敬称略)
著者プロフィール
谷上史朗 (たにがみ・しろう)
1969年生まれ、大阪府出身。高校時代を長崎で過ごした元球児。イベント会社勤務を経て30歳でライターに。『野球太郎』『ホームラン』(以上、廣済堂出版)などに寄稿。著書に『マー君と7つの白球物語』(ぱる出版)、『一徹 智辯和歌山 高嶋仁甲子園最多勝監督の葛藤と決断』(インプレス)。共著に『異能の球人』(日刊スポーツ出版社)ほか多数。
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