【育将・今西和男】片野坂知宏「引退後のための教育もしっかりされていた」 (2ページ目)
0対0で迎えた後半8分、楔(くさび)の高木にボールが入る。小林伸二とのマンツーマントレーニングで鍛えられた高木のポストプレーは堅実で、DFを背負いながらもしっかりとターンすると左に回りこんだ。ドリブルで直進し、そのままボールを前方に流し込んだ。チェルニーがゴールラインぎりぎりでこれに追いつき、ノールックのヒールで後ろに戻すと、阿吽(あうん)の呼吸で片野坂が猛スピードで駆け上がってきていた。倒れ込みながら左足でダイレクトクロスを上げると、ボールはピンポイントで中央に待つハシェックの頭上に飛来した。チェコ代表のキャプテンはDF2人と競り合いながら、これをゴール右隅に叩き込んだ。組織として、意思とアクションが見事に連動したあまりに美しい先制点だった。このゴールでサンフレッチェは勢いに乗り、4対2でジェフを破った。
当時、日本五輪代表監督であった西野朗はスポーツ紙の解説で、このように書いている。
「広島のサッカーを一言で言えば、組織力のサッカー。各選手の役割分担がはっきりし、それを11人が完璧に理解し、実践しているために安定感がある」。さらに個人技に頼るヴェルディと比較して「(一方)川崎は軸になる選手が一人抑えられるとチームとして機能しなくなる。(広島は)この出来と勢いなら優勝は99%間違いないだろう」
事実、西野のこの予想は当たるのであるが、片野坂自身は当時のサンフレッチェをこう冷静に分析する。
「システムもそうですが、選手同士のコミュニケーションが取れていました。中心がキャプテンの風間さんで、風間さんが周囲の選手に対して、意見をガンガン言うし、逆に周りの意見も聞いてくれたんです。本当にリーダーとして引っ張ってくれていて、高木さん、前川さん、森保さんという日本代表選手もチームのためを第一に考えてプレーしていました。まだ若かった僕は、それに従ってやっていただけですけど、一体感がすごくありました。今思えば、そういうひたむきにサッカーに向き合う選手、ストイックな選手を今西さんは集めていたのかなと思います」
そして、サンフレッチェの選手の個性についてこんなことを言った。
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