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【追悼】長嶋茂雄監督から「準備しなくていい」の直後に「代打・篠塚」 ミスターの直感は多くの人を困惑させ、惹きつけた

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Sankei Visual

 プロ野球・読売巨人軍の選手、監督として活躍し、「ミスタープロ野球」と呼ばれた長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督が逝去した。なぜ長嶋氏は誰からも愛されたのか。スポルティーバでは今回追悼の意を込めて、巨人軍の愛弟子のひとりである篠塚和典さんが、「人生を変えた」という長嶋氏との出会いを振り返ったインタビュー記事(全3回)を再掲載します(2023年4月掲載)。謹んでご冥福をお祈りします。

野球人生を変えた名将の言動(10)

篠塚和典が語る長嶋茂雄 後編

(中編:ルーキー原辰徳がセカンド→控えの篠塚和典に長嶋茂雄が「腐るなよ」>>)

 篠塚和典氏に聞く長嶋茂雄監督とのエピソード。後編は長嶋監督の"直感"野球、引退を決断した際のやりとりなどを聞いた。

2期合計で15年、巨人の指揮を執った長嶋茂雄氏2期合計で15年、巨人の指揮を執った長嶋茂雄氏

【直感的な采配に「えっ!?」】

――長嶋監督の野球を、言葉で表現するとしたら?

篠塚和典(以下:篠塚) 試合展開によって当然いろいろなことを考えているとは思うのですが、やっぱり"直感"という言葉になりますね。「動物的な勘」という感じです。選手交代などでも、「えっ!?」と思う場面が多々ありましたから。

【他のミスター話を動画で見る】原辰徳、地獄のキャンプ裏話 篠塚和典×定岡正二 スペシャル対談

――たとえば、どんなことがありましたか?

篠塚 序盤で先発ピッチャーが打ち込まれている試合だったのですが、ピッチャーに打席がまわる前にミスターが「ピッチャーを代えるから、代打用意しとけよ」と。あの時は、柳田俊郎さんや山本功児さん、原田治明さんら、代打で呼ばれる可能性があるバッターが何人かいましたが、そんななかで僕も準備をしようとしたんです。

 そうしたら「いや、シノは準備しなくていい」と言われたので、「自分の出番はないんだな」と思うじゃないですか。だけど、代打のタイミングでベンチから出ていったミスターが「篠塚」って言ったんです(笑)。僕はまったく準備していませんでしたから、慌てて手袋をしたり準備をし始めて、ネクストバッターズサークルで2、3回バットを振っただけで打席に入りました。

――結果はどうでしたか?

篠塚 打てるわけがないですよ(笑)。結果は凡退でした。ただ、そのことをきっかけに、「常に準備しておかなきゃいけない」と意識するようになりました。その時はミスターの頭のなかに僕の名前が突然浮かんじゃったのか、真意はわかりませんけど、「今後も同じようなことがあるだろうな」と。

――これまでのお話(前編・中編)で、長嶋監督の突拍子もない発言や行動に対する篠塚さんの柔軟なリアクションを聞く限り、おふたりは相性がいいような気がします。

篠塚 相性がいいのかはわかりませんが、僕が思っている以上に、ミスターは意外と僕のことを思ってくれていたのかなとは感じます。節目節目で電話をかけてきてくれて、声をかけて励ましてくれましたし、常に気にしてくれていたんだなと。僕が現役を引退する時も、ちょうどミスターが第二次政権(1993年~2001年)で指揮を執っていたので、その話もしました。

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著者プロフィール

  • 浜田哲男

    浜田哲男 (はまだ・てつお)

    千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界でのマーケティングプランナー・ライター業を経て独立。『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ系メディアで企画・編集・執筆に携わる。『Sportiva(スポルティーバ)』で「野球人生を変えた名将の言動」を連載中。『カレーの世界史』(SBビジュアル新書)など幅広いジャンルでの編集協力も多数。

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