ルーキー原辰徳がセカンド→控えになった篠塚和典に長嶋茂雄が「腐るなよ」 巨人の安打製造機が振り返る救いの言葉

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Kyodo News

野球人生を変えた名将の言動(10)

篠塚和典が語る長嶋茂雄 中編

(前編:巨人のドラ1指名を喜べなかった篠塚が「ミスターに恥をかかせちゃいけない」と思った瞬間>>)

 指揮官として巨人を5度のリーグ優勝、2度の日本一に導いた長嶋茂雄監督。長らく巨人の主力として活躍した篠塚和典氏に聞く長嶋監督とのエピソードの中編は、熾烈なレギュラー争い時にかけられた言葉や、練習時に受けたアドバイスなどについて聞いた。

篠塚(中央)と原(右)を迎える長嶋監督篠塚(中央)と原(右)を迎える長嶋監督この記事に関連する写真を見る

【ルーキー原がまさかのセカンド起用で「冗談じゃない」】

――長嶋監督は、選手とコミュニケーションを積極的にとる方でしたか?

篠塚和典(以下:篠塚) そうですね。特に第一次政権(1975年~1980年)の頃はミスターも若かったですし、バッティングも守備も手取り足取りで指導を受けました。ミスターが実際に動きを見せてくれるのですが、選手たちはそれを見て学ぶことが楽しみでしたね。あんなに動ける監督はあまりいなかったですから。

――(前編で聞いた)ドラフト会議の時の言葉をはじめ、野球人生の節目で長嶋監督からさまざまな言葉をかけられてきたと思いますが、印象に残っている言葉は?

篠塚 1981年のレギュラー争いの時ですね。その前年にプロ入り後初めて100試合以上に出場できて、1981年は「セカンドのレギュラーを確保したい」と意気込んで臨んだシーズンでした。そんなタイミングで、原辰徳(1980年ドラフト1位)が入ってきたんです。

 彼はサードでしたし、「セカンドにくることはないだろう」と思っていたのですが......サードには中畑清さんがいた関係で、原がセカンドにきたんですよ。それは確か、ベロビーチ(米フロリダ州)でのキャンプの最終クールの時だったと記憶していますが、「まさか」と思いましたね。

――予期せぬ事態だったわけですね。

篠塚 そうですね。「冗談じゃない」という思いもありましたが、まだキャンプの段階ですし、「勝負はこれからだ」と気持ちを切り替えました。ただ、オープン戦でだいたい使われ方がわかるじゃないですか。オープン戦が残り少なくなってきた頃には、僕がベンチにいて、原がセカンドで起用されていました。

 そんなタイミングで、ミスターが電話をかけてきたんです。ミスターは前年で監督を退任していたのですが、気にかけてくれていたんでしょうね。「腐るなよ。必ずチャンスがくるから、チャンスをもらった時にしっかり力を出せるように準備しておけ」と。さらに、「ベンチにいる時も、練習中も、常に"試合"を意識して取り組め」と言われたんです。

 その言葉をきっかけに、バッティング練習をする時はランナーを自分で想定して「どういうバッティングをしたらいいのか」、ノックを受ける時は「打者は足が速いのか、普通なのか、遅いのか」といったことを想像しながら動くようにしました。

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