サッカー日本代表とは大違い ワールドカップ優勝候補アルゼンチンは「消化試合」をいかに戦ったか
森保ジャパンは「ワールドカップ優勝」を目標に掲げたが、率直に言って、賢明とは思えない。準々決勝にもたどり着いたことがないチームに、見えない負荷がかかるからだ。
ではワールドカップで優勝するとはどんな感覚なのか? 現王者アルゼンチンの強さを検証した。
アルゼンチンは過去3回のワールドカップ優勝を誇り、前回大会の王者でもある。FIFAランキングはスペイン、フランスを抑えて1位で、シンプルに強い。戦術、システムなどに画期的なものはないし、整理されてもいないが、選手たちが戦況のなかでやるべきことを理解し、すさまじい集中力と意欲でプレーできる。荒々しいばかりの適応力で、順次、問題を解決できるのだ。
彼らの象徴は今もリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)で、神のような厳かな輝きを見せる。
しかしながら、依存することはない。選手が一丸となって、アルゼンチンの勝利のために戦う。そのイデオロギーが戦術の根幹を担っているのだ。
ワールドカップ南米予選でコロンビアと対戦したアルゼンチンのリオネル・メッシ photo by Reuters/AFLOこの記事に関連する写真を見る だからこそ、メッシが相手ボールになってフラフラと歩いていようとも、いくらでも周りがカバーする。メッシにはメッシの役割がある、という理解をしているからで、メッシ自身もそれをわきまえている。選手たちが腹をくくっているからこそ、よしんばメッシがいなくても、3月のブラジル戦のように勝利できる。ロドリゴ・デ・パウル(アトレティコ・マドリード)、アレクシス・マック・アリスター(リバプール)、エンソ・フェルナンデス(チェルシー)の常勝精神は強烈だ。
カタールワールドカップで世界王者になったチームの守護神、エミリアーノ・マルティネス(アストン・ビラ)の敵アタッカーを挑発する駆け引きは、賛否が分かれるだろう。しかしそれは、批判を浴びようとも、"勝利のためにはなりふり構わない"というアルゼンチン人の正義を象徴している。自分を追い込んで勝負に挑み、神経を鋭敏にしているからこそ、6月4日(現地時間、以下同)のワールドカップ南米予選チリ戦でも1-0の勝利に導くスーパーセーブができたのだ。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。