ドジャースタジアム史上7本目の場外弾は間近? 大谷翔平の打球が飛ぶ理由を公式データで分析 (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【MLB公式データ分析から見る大谷のすごさ】

大谷のHRボールを場外で手にしたクレーマーさん photo by Kyodo News大谷のHRボールを場外で手にしたクレーマーさん photo by Kyodo Newsこの記事に関連する写真を見る さて、なぜ大谷の打球はこんなに飛ぶのか。

 MLBが今年5月からデータサイト『ベースボールサバント』でスイング時のバットの動きを追跡し、解析するデータを公開し始めた。それによると、7月23日までの時点で最も平均のバットスピードが速いのがニューヨーク・ヤンキースのジアンカルロ・スタントンで80.7マイル(約129キロ)。スタントンはすでに書いたように15年のマーリンズ時代にドジャースタジアムで場外弾を放ったが、16年にはコロラド・ロッキーズの本拠地クアーズフィールドで504フィート(約154メートル)も飛ばしたことがある。しかしながらバットの芯に当たる確率は20.8%と低く、今季も打率は.246だ。対照的にメジャーで最もバットスピードが遅いのがパドレスのルイス・アラエスで62.8マイル(約100キロ)だが、バットの芯に当てる確率は44.1%と1位。今季も2本塁打と長打力はないが打率は.310。22年、23年は連続で首位打者に輝いている。

 理想はバットスピードが速く、芯に当てる確率も高い打者だ。大谷のバットスピードは75.7マイル(約121キロ)で全体11位、バットの芯に当てる確率は26.8%で80位である。80位は決して優れた順位ではないが、大谷よりバット速度の速い打者は、概ね芯に当てる率は大谷よりも低い。大谷よりもバット速度が速く、芯に当てる率も高いのはヒューストン・アストロズの強打者ヨルダン・アルバレスだけだ(75.9マイル、27.4%)。

 そのうえで大谷に本塁打が多いのは「Blasts/ブラスト」という指標で説明できる。ブラストとは、投手の球速に応じた最高打球速度を100%、その80%以上の打球速度のスイングを対象に一定マイル以上のスイングのことを指す。端的に言えば、速いバット速度でボールを芯でとらえられたスイングのことである。大谷は7月22日までに118スイング。これはメジャー1位で、2位はヤンキースのアーロン・ジャッジの117スイングだ。ただしブラストが多くても打球角度が低くては、本塁打にはつながりづらい。レイズのヤンディ・ディアスは5位の114スイングだが、平均の打球角度が4度と低いため、わずか8本塁打。大谷は13.7度、ジャッジは18.4度である。

『ベースボールサバント』には、ほかにも興味深い指標がある。「ファストスイング率」は75マイル(120キロ)以上の速いスイングをした確率で、スタントンは全体の98.1%といつも目いっぱい振っている。大谷は58.9%の10位だ。対照的にクリーブランド・ガーディアンズのコンタクトヒッター、スティーブン・クワンは75マイル以上のスイングは一つもない。

 スイングの長さ(バットの始動からボールを捉えるまでの長さ)はスタントンとニューヨーク・メッツのJD・マルティネスが約256センチで1位、大谷は約235センチで33位だ。スイングが長いほうが当然バット速度は上がる。アラエスは180センチで最も短い。

 バットの動きを解析するデータは、今後も指標が加わり、増えていく見込み。なぜ大谷の打球は飛ぶのか、物理的に、より理解を深められるのである。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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