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離島から甲子園出場、奇跡のチームに異変? 大島高校は「ずっと勝てていない。どん底です」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

身体能力は決して高くない

 大島高校の野球部員は公式戦や練習試合のたびにフェリーに乗り、12時間前後の海路で鹿児島に渡って試合をする。植直之副部長は「フェリーから降りたあとも、しばらくは地面が揺れているような錯覚を起こすんです」と教えてくれた。

 そんなハンディがあるにもかかわらず、大島は昨秋の鹿児島大会で優勝。さらに九州大会では準優勝と躍進し、選抜高校野球大会(センバツ)出場を決めた。今春のセンバツは明秀学園日立(茨城)の前に0対8と完敗したものの、今夏の鹿児島大会でも優勝候補の一角を占める実力校である。

 練習環境だけを見れば、ごく普通の公立高校のそれに近い。だが、大島が特殊なのは、グラウンドには密着取材するテレビカメラのクルーがおり、複数人体制で視察に訪れたプロスカウトがいることだ。

 平日の全体練習はわずか50分足らずで終わった。その後は自主練習の時間となり、バックネットに向かって打ち込む者、ノックを受ける者、それぞれの課題に取り組む。

 自主練習の時間が長いのは、塗木哲哉監督の方針である。

「島の子は反復練習を嫌わずにできます。たとえばティーバッティングをやるなら、休まずに延々と同じ練習ができる。だから技術が身につくのでしょうね」

 目を奪われるようなパフォーマンスを見せる選手もいれば、ごく平凡な力量の選手も混在する。島の子どもと言えば身体能力が高いイメージがあるが、大島の指導者は「鹿児島市内の子のほうが身体能力は高い」と口をそろえる。

 かつて奄美大島北部地区の中学選抜チーム「奄美クラブ」を率い、2008年の全日本少年軟式野球大会ベスト8に導いた実績のある奥裕史コーチはこう証言する。

「10数年前より奄美の中学野球のレベルは落ちていますし、選手たちのお父さん世代のほうが身体能力は高かったですよ。以前は100メートルを11秒台で走るような子がチームに4〜5人はいましたけど、最近はいませんから」

 島内を走るバスで通う部員もいるため、練習は18時には終了。グラウンド整備や片づけをして、選手は帰宅する。

 キャプテンの武田涼雅に今のチーム状況について聞くと、意外な答えが返ってきた。

「去年の秋の九州大会決勝からずっと勝てていないので。チームはどん底だと思います」

 奇跡のチームに何が起きているのか。時計の針を3月のセンバツに戻してみよう。

(つづく)

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