高校入学時は最速107キロの投手、大学時代に引退勧告を受けた強打者...BC群馬からNPB入りを目指す非エリートの挑戦

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

飛躍のきっかけは動画サイト

 電光掲示板に「154」という数字が表示されると、CAR3219フィールド(西武第二球場)のスタンドだけでなく選手のいるベンチからもどよめきが起きた。

 この日は西武のファームチームとBCリーグ選抜の交流試合が行なわれていた。154キロものスピードボールを投げたのは、西武の投手ではない。BCリーグ所属の独立リーガー、それも19歳の若者である。

BCリーグ、群馬ダイヤモンドペガサスの西濱勇星BCリーグ、群馬ダイヤモンドペガサスの西濱勇星この記事に関連する写真を見る 西濱勇星(にしはま・ゆうせい)。群馬ダイヤモンドペガサスに所属して2年目になる右投手だ。

 ドラフトに興味のある野球ファンなら、西濱の存在を知っているかもしれない。2年前の9月に東京ドームで開かれたプロ志望高校生合同練習会で最速147キロをマークしたのが、当時関東学園大付に所属した西濱だった。ダイナミックな腕の振りと、オールストレートで勝負する気っ風のよさ。同年のドラフト指名は逃したものの、西濱は鮮烈な爪痕を残した。

 西濱は恐ろしいまでの成長曲線をたどっている。本庄ボーイズに所属した中学時代は3〜4番手の控え投手で、関東学園大付に入学した直後の最高球速は107キロ。紅白戦ではめった打ちに遭い、西濱は「アウト2個をとるまでに8点を取られて、そのイニングを強制終了されました」と振り返る。

 そんな西濱が変わるきっかけになったのは、動画サイトで見た「レジー・スミスベースボール:ジャパン」がアップロードした速球派投手の動画だった。レジー・スミスベースボール:ジャパンとは、MLB式の技術とトレーニングを伝える育成機関のこと。西濱は同機関の動画を参考にし、時には福島県にある施設まで指導を受けに出かけた。そんな努力を経て、西濱は徐々にスピードを出すためのコツを体得していく。

「最初はヒジから上げてヒジから出す腕の振りだったんですけど、小さい筋肉しか使えないしケガのリスクが増えるなと。胸郭周りや肩甲骨周りのもっと大きな筋肉を使うようにして、腕は力を入れずに『勝手に振られる』感覚を身につけていきました」

 時には陸上部のやり投げ選手と一緒にトレーニングをして、ヒントを得ようと取り組んだ。高校3年間で西濱の最高球速は40キロ、卒業後も含めれば4年強で47キロも伸びている。そんな選手がいまだかつて存在しただろうか。

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