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「いつもの感じで投げていいですか?」 豪雨のブルペンで東浜巨が見せた大物感と、手のひらの骨がきしむほどの剛球 (4ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Masahiko Abe

【フルーツパフェを頬張るふつうの高校生】

 と、その時だった。さっきから向こうの建物のひさしの下で、じっとこちらを見ている紳士がいる。熱心な近所の野球ファンだろうかと思っていたら、傘の下から表情が見えてハッとする。オリックスの流敏晴(ながれ・としはる)スカウトだった。2016年に亡くなられた名スカウトで、当時は九州地区を担当していた。

「えらい気合い入ったのが受けとるなぁ思うたら、なんや、安倍さんかいな......。あんた、ほんまに受けとるんやなぁ(笑)」

 そろそろ終わろうかと思っていたが、流さんに特別サービスであと5球。

「オレが一生忘れられんようなボール、放ってこい!」

 こういう時も、声を張り上げたりしないのが東浜だ。ただ自分に向かって、「おっしゃ!」と気合いを入れた。その"5球"がすごかった。

 地面を這うように伸びてきた速球が、水たまりをかすめ、水煙を上げた。東浜本人は「水煙なんて、そりゃちょっと大げさなんじゃないですか......」と、いつもの飄々とした表情で言うだろう。それでも、あの日の私にはたしかに見えた。そう思えるほど、東浜のボールは強烈だった。

 朝から降り続いていたスコールが上がると、さっきまでの豪雨がウソだったかのように、沖縄の青空が一面に広がった。なにかと世話を焼いてくれた西銘生悟主将も誘い、近所のファミリーレストランへ向かった。

 昼食をご馳走するつもりで行ったのに、東浜が真っ先に注文したのは、なんとフルーツパフェ。パインにメロン、オレンジ、バナナ......。色とりどりの果物が山盛りになったパフェを、東浜は夢中で平らげていく。その勢いとうれしそうな童顔は、そこらへんにいる高校生と同じだった。

 あれから18年──。まもなく36歳、ソフトバンク投手陣最年長となった右腕は、昨オフに国内FA権を行使しながらも、残留を決断した。もちろん、まだ老け込むような年齢ではない。あの屈託のない笑顔を、これからも何度でもマウンドで見たい。

東浜巨(ひがしはま・なお)/1990年6月20日生まれ、沖縄県出身。沖縄尚学高では3年春の選抜でエースとして圧倒的な投球を披露し全国制覇。亜細亜大へ進学後は、東都大学リーグで通算35勝22完封をマーク。2012年ドラフト1位で3球団競合の末にソフトバンクへ入団。2017年に16勝をマークして最多勝のタイトルを獲得し、2022年5月11日の西武戦でノーヒットノーランを達成。25年オフに国内FA権を行使したうえで残留を決断した。

著者プロフィール

  • 安倍昌彦

    安倍昌彦 (あべ・まさひこ)

    1955年、宮城県生まれ。早稲田大学高等学院野球部から、早稲田大学でも野球部に所属。雑誌『野球小僧』で「流しのブルペンキャッチャー」としてドラフト候補投手のボールを受ける活動を始める。著書に『スカウト』(日刊スポーツ出版社)『流しのブルペンキャッチャーの旅』(白夜書房)『若者が育つということ 監督と大学野球』(日刊スポーツ出版社)など。

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