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【プロ野球】西武・仁志敏久コーチが語る"令和の打撃指導論" 「打てるようにしてやるなんておこがましい」 (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke

 コーチ業に真摯になるほど、そのミッションは深遠になっていく。仁志コーチの話を聞くと、細やかな仕事ぶりを想像できるだろう。

 具体的にバッティングはどう指導するのだろうか。たとえば、今季の春季キャンプで滝澤は「仁志コーチに『確率が悪い』と指摘された」ことで本来目指すべきスタイルが明確になったと話した。

 悪いクセのないという滝澤に仁志コーチが行なったのは、打撃の運動連鎖がうまくできているかを解剖していくことだった。

「バッティングでは、一度しっかり後ろに体重を乗せないと、前に体重は移りません。前に体重を乗せていく感覚や、軸足への体重の乗せ方、打ちにいくときのバットの引き下ろし方や軌道など、それぞれの動きをフェーズごとに分けて考えています。パーツごとに理想の形があるので、選手一人ひとりの特徴を見極めながら『おまえの場合は、この部分をこうしたほうがいいんじゃないか』という形で話をしています」

 他人同士では感覚が異なるなか、打撃の理論的に正しい方向に持っていく。そうして「打てる可能性を引き上げる」のがコーチの役割だ。

 ただし、最後は感覚の世界になるから難しい。しかも投手がボールを離してから、ベース盤に届くのは1秒を切る世界だ。

【投高打低になるのは当然】

 さらに2020年以降、球界では"投高打低"が急激に進んでいる。投手たちの球速&パワーアップ、変化球の多様化は著しい。

 今季、12球団で規定打席に到達した3割打者は3人しかいなかったが、現在のプロ野球は仁志コーチにどう見えているのだろうか。

「噂レベルかもしれないけれども、正直ボールが飛ばないというのは客観的に見ていても、やっている選手たちもそう感じています。そのうえでピッチャーのボールがいいとなると、不利は不利ですね。トルピードとかバットの新たな形状も出てきましたけど、バッターができることはその程度です。

 ピッチャーみたいにあっちに曲げたり、こっちに曲げたり、タイミングを変えたりとかできない。主導でやっているのはピッチャーなので、最終的に投高打低になるのは当然です。そもそも打率3割しか打てないこと自体、"打高"ではないので」

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