検索

【日本シリーズ】「甲斐さんがいなくなって弱くなったと思われたくなかった」 ソフトバンク、5年ぶりの日本一を支えた新正捕手・海野隆司の成長譚

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro

 ソフトバンクが最後の山頂にたどり着いた。レギュラーシーズン、クライマックスシリーズ(CS)、そして日本シリーズの三大名峰の登頂を成し遂げ、5年ぶり12度目の日本一を達成した。

「3つ目の山を登りきる」

 そのように話していた小久保裕紀監督。今年2月中旬、日本一への祈願を込めて、実際に自らの足で高千穂峰(標高1574m)を登頂した。霧島連山の主峰で、古事記や日本書紀に記されている天孫降臨の舞台と伝わる山。

 山頂は霧島東神社の飛地境内で、社宝の「天逆鉾(あまのさかほこ)」が突き刺さっていることで有名だ。1年前も霧島東神社を訪れたが、その時は山頂を目指さず参拝だけでその場をあとにした。結果、リーグ制覇は成し遂げたものの、日本シリーズではDeNA相手に連勝スタートもまさかの4連敗で涙をのんだ。

「昨年敗れた喪失感。それがずっと頭にあった」

 山道は険しく、片道4、5時間かかったという。キャンプ中の貴重な休日にヘトヘトになったが、日本一を奪い取る強い決心が足を前に動かした。

5年ぶり12度目の日本一を果たし、胴上げされる小久保裕紀監督 photo by Sankei Visual5年ぶり12度目の日本一を果たし、胴上げされる小久保裕紀監督 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る

【延長11回の激闘を制し日本一】

 いざ迎えたペナントレース。2025年のソフトバンクに立ちはだかったのは、険しい山道ばかりだった。開幕早々に故障者が続出して4月末時点では最下位に低迷。そんな困難のなか、これまで出番に飢えていた、おもに中堅どころの選手たちが次々と台頭して、本当の意味で層の厚いチームができあがった。

 リーグ連覇で1つ目の山を制し、CSはレギュラーシーズンで一騎打ちを繰り広げた日本ハムとの最終第6戦までもつれ込んだ激闘も勝ちきって、2つ目の山も登りきった。

 3つ目の山だった日本シリーズ。4勝1敗の結果だけを見れば圧倒したように思われるが、5試合中4試合が1点差ゲームだったという事実が、紙一重を物語っている。

 延長11回決着となった第5戦は、まさしくその象徴だった。

 0対2で迎えた8回表に柳田悠岐が、シーズンではプロ野球新記録の50試合連続無失点を達成し、防御率0.17と驚異的な成績を残した石井大智から同点2ランを放った。そして延長11回表、野村勇が阪神の勝負手でリリーフ登板した村上頌樹を打ち砕く決勝ソロアーチを右翼席へ叩き込んだ。

1 / 3

著者プロフィール

  • 田尻耕太郎

    田尻耕太郎 (たじり・こうたろう)

    1978年生まれ、熊本市出身。 法政大学で「スポーツ法政新聞」に所属。 卒業後に『月刊ホークス』の編集記者となり、2004年8月に独立。 九州・福岡を拠点に、ホークスを中心に取材活動を続け、雑誌媒体などに執筆している。

フォトギャラリーを見る

キーワード

このページのトップに戻る