【日本シリーズ】「甲斐さんがいなくなって弱くなったと思われたくなかった」 ソフトバンク、5年ぶりの日本一を支えた新正捕手・海野隆司の成長譚 (2ページ目)
日本シリーズMVPには第2戦から日本シリーズタイ記録の3試合連続ホームランを放った山川穂高が輝いた。
投手陣もよく踏ん張った。なかでも自慢の必勝リレーを支える藤井皓哉、松本裕樹、杉山一樹の"樹木トリオ"と呼ばれるリリーバーたちは5試合中4試合でマウンドに立った。
称賛すべきヒーローの名前が次々と浮かんでくる。
ただ、今シーズンを振り返った時に誰が一番成長したかと問われれば、迷うことなく海野隆司の名前を挙げたいと思う。
チームの新たな扇の要となり、堂々と、1年間マスクを被り続けた。
ソフトバンク投手陣を支えた海野隆司 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【シーズン当初は気持ちが空回り】
昨オフ、甲斐拓也が国内FA権を行使して巨人へ移籍。正捕手交代のシーズンだった。
「甲斐さんがいなくなったからホークスが弱くなったと思われるのが一番悔しい。それだけは絶対にないようにと思っていました」
だが、シーズン当初は気持ちが空回りした。小久保監督からは「スローイングとブロッキング」を課題として与えられたが、なかなか盗塁を刺せず、投球がプロテクターと体の間に挟まる珍しい暴投で走者生還を許したりと苦戦した。さらに配球でも悩んだ。
「去年までほとんどマスクを被っていないので、"つながり"が僕にはわからないんです」
投手の気持ちを汲み取るのが難しく、自分の考えもうまく伝わらない。同学年の杉山は「何度もぶつかりました」と明らかにした。
チームが低迷していた春先は、取材をしていてもどこか頼りなく映った。ようやく声が出てもボソボソと短い答えが返ってくるだけ。海野には明るいムードメーカーというイメージもあるが、実際の根っこは物静かなタイプ。日々、本当に苦しかったのだろう。
だけど、逃げるわけにはいかない。
「正直、今年結果を出さないと、野球人生が終わると自分では思っていました」
それだけの覚悟はあった。有原航平やリバン・モイネロといったエース格とバッテリーを重ねることで、経験値は確実に積み上げられていった。徐々にチーム状態も上向きに。いま思えば6、7月あたりから海野の取材対応が大きく変わった。相手の目を見て、自分の意図を明確に言葉にできるようになった。
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