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今のMLBに「イチロー」はいない−−偉大なリードオフマンの殿堂入りに思う個性が消えゆくMLBの傾向とその背景 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【統計分析が見落としがちな魅力の源泉】

 球団は打者の評価基準として打球速度と打球角度を重視するようになり、打線全体が1番から9番までホームランを狙うスタイルへと変化した。この現状についてイチローは最近の国内テレビのインタビューで「今のメジャーの野球は見ていてストレスがたまる。退屈な野球。打順でのそれぞれの役割のようなものがまったくない」と批判していた。

「さらにデータでがんじがらめにされて、感性が消えていくのが現代の野球。以前は頭のよくない選手は野球に向いてないって言われたけど、今はそうじゃなくなってきている。残念ではあるけど、実際にそうなってしまっている」と続けた。

 筆者は2010年の時点で前出のドキュメンタリー作家、バーンズ氏にセイバーメトリクスについても質問していた。当時、アスレチックスに加え、タンパベイ・レイズ、ボストン・レッドソックス、クリーブランド・インディアンズ(現ガーディアンズ)、セントルイス・カージナルスなども統計分析を駆使して成功を収めていたが、バーンズ氏はその流れに否定的な立場を取っていた。

「私は、どうかな、と思っている。セイバーメトリクスの人は、例えば、データを検証してみると、クラッチヒッターなるものは存在しないと断言する。だが、私のようにボストンに住み、チャンスに強いデビッド・オルティーズの打撃を見てきた者は、現に存在するではないかと反論したくなる。

 私は数字を越えるようなプレーを見せる選手が好きだ。1+1が2ではなく、3にできるようなプレーヤー。イチローはまさにそういう存在だと思う」

 セイバーメトリクスは、試合に勝つための最適解を提供し、球界を変革した。しかし、プロ野球は単なる競技ではなく、エンターテイメントでもある。ファンがゲームを見て、どこに面白さを感じ、どこでワクワクするのか――その魅力の源泉を、統計分析は見落としている。

つづく

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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