巨人・坂本勇人らを育てたコワモテ監督が勝利至上主義からの脱却「選手の舞台を自分が奪ってしまっていた」 (3ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 自律だけでなく、自立するためにはどうすればいいのか。

「子どもたち主導に考えて、僕がいかに邪魔をしないか。力を発揮しやすいようにしようと考えるようになりました。それまでは『勝たせてやろう』というのが多かったんですけど、『勝ってほしい』と思うことが多くなりました」

 その一環で始めたのが選手同士でほめ合うミーティング。1人3分間で3人をほめる。そこに金沢監督も入り、毎日行なった。人間はほめられればうれしい。もっとやろうという気になる。仲間から認められることで、選手たちのモチベーションが上がりチームの雰囲気もよくなった。また、無理やりにでもほめる部分を探すため、気づく力を養うことにもつながった。

「野球がうまい、ヘタじゃなしに、勝つためにどうすればいいかという時間ですね。今の子たちは、野球で優劣を決める。野球がうまかったら偉い、ヘタくそだからダメ。そういうのを変えていきたい。野球に対する姿勢、ボールに向き合う姿勢の優劣で野球人の真価が問われるんだと」

 休養や睡眠時間、音楽を聴いてリラックスする時間を重要視するようになったのも、選手たちが力を発揮しやすくするために考えたことだ。

「禍を転じて福と為すじゃないですけど、コロナがなかったら、今もバカみたいに『甲子園、甲子園!』って騒いでいたかもわからないですね」

精神面の成長で野球にも変化

 人は変化を避ける生き物だ。いつもと同じが安心できるし心地よい。だから、大きなきっかけがなければ変わることは難しい。金沢監督の場合、それがコロナによる甲子園中止だった。勝利至上主義から脱却した金沢監督が掲げる目標は、"真の日本一"だ。

「野球に向き合う姿勢。うまい、ヘタだけではないという部分も含めて日本一を目指したい。そして、常に最悪、最低限、最高を考える。これを意識させています。僕がそれを思っている限りは、子どもらは間違った方向にはいかないと思います」

 どんなに"元気のいい"生徒でも親身に接する金沢監督を慕って明秀日立にもやんちゃな生徒が多数入学してくるが、そんな彼らが四死球での出塁時にはバットを丁寧に置き、守備に就くと守備位置を丁寧に手でならす姿がある。

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