巨人・坂本勇人らを育てたコワモテ監督が勝利至上主義からの脱却「選手の舞台を自分が奪ってしまっていた」 (4ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 感情を態度や表情に出し、金沢監督に怒られ続けていた石川ケニーも、キャッチャーへのファールフライに倒れたあと、マスクを拾い、自らのユニフォームでマスクについた土をふいてから相手に渡すようになった。これらの行動は、金沢監督が野球以外の大切さを彼らに説き続けた結果だ。

 精神面の成長は野球にもつながる。強打のチームでフルスイングが代名詞のように思われがちだが、2ストライクからは指3本分短く持ち、最低限の仕事を心がけた打撃をする。自分勝手なプレーをしていては勝てないと、選手たちがそれを理解した結果、チームプレーを優先するようになった。
 
 監督が真剣に選手と向き合い、自らの思いの丈を話す。それを選手が理解することで、絆が生まれた。茨城大会決勝では同点の9回裏二死一塁で、この日4打数0安打の3番・佐藤光成に打席が回った。代打起用を考えた金沢監督が選手たちに意見を求めると、彼らは「佐藤にかけましょう」と即答した。そのまま打席に立った佐藤がサヨナラ本塁打を放ったのだ。

「どうするか聞いたら、全員に拒まれたんですよ。それこそ、漫才のツッコミぐらいの勢いで(笑)。昔なら? 聞かないですね」

 茨城大会で不調だったエースの猪俣駿太とは、初戦の4日前に1対1で話した。

「フォームにこだわったり、体の調子で浮ついたことがあったんです。『それは違うだろ。ここまでコツコツやってきたんだから、その気持ちを忘れてどうするんだ。丁寧に気持ちを込めて投げろ。速いボールを投げようとせず、粘り強く、キレのある低い球を投げればいい。おまえはいい場面でよくなるピッチャーや』と」

 翌日の投球練習では、あまりのデキのよさに思わず抱擁したという。

「『コイツはやっぱりええピッチャーやな。偉いな』と思ったら、なぜかハグをしてしまった。めっちゃ嫌がられましたけど、『いいからしろ』って(笑)」

選手たちの前で生歌を披露

 初戦前日のミーティングでは、選手たちの前で歌を披露した。歌ったのは、ひそかに練習していた福山雅治の『甲子園』。茨城大会の時に約束していたことだった。

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