「リオ五輪4継リレーでの銀メダル獲得」が走れなかった高瀬慧に与えたダメージ「部屋に閉じこもってテレビも観られなくなった」 (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

 10月になると少しずつ活動できるようになって、地方で陸上クリニックや講演を行なうなかで知り合いに会うと『引退するかどうか悩んでいる』と話す機会もありました。そこで『高瀬の走りをもう一度見たい』と言ってくれる人もいて、『自分はこれだけの人に応援されていたし、まだ期待してくれているんだ』と思えたことが、それが次の五輪を意識する原動力になりました。それまで、『こんなに結果を出せなくて、自分はこの数年間何をしていたんだろう』とマイナスに傾いていた気持ちが、前向きに変わるきっかけになりました」

 20代後半も陸上に打ち込み、新たな取り組みもして挑戦も続けたが、結果はなかなか伴わず、日本選手権に出場できなかった2021年に引退した。

「リオで結果を出したら、たぶんすぐに辞めていたと思いますが、何より『もう一度見たい』と言っていただいた時にアスリートとしての価値を感じました」

 富士通の社員として戦ってきた高瀬は、最後の4年間で学んだことがあるという。

「結果は出せなかったけれど、『アスリートの価値ってどこにあるんだろう』ということを探求したり、企業(富士通)に勤めているなかで『企業スポーツとは何か』を考えるいい時間になりました」

「将来的には指導者という道もあるかもしれませんが、コーチングに関する知識はゼロで自分の経験しかないので、どこまで知識をつけたら選手を見られるのか、などは模索中です」と、高瀬は今の自分にできることに全力で向き合っている。

profile
高瀬慧(たかせ・けい)
1988年11月25日生まれ、静岡県出身。
順天堂大学に進学後に400mで開花するとともに、日本選手権では4×100mリレーと4×400リレーで成績を残した。2011年に富士通入社後は100mと200mでも成績を残すようになり、200mは2012年、100mでは2015年の日本選手権で優勝を果たしている。2012年ロンドン五輪で200mとマイルリレーに出場し、2016年リオデジャネイロ五輪は200mに出場。ケガに悩まされることも多かったが、引退レースとなった2021年全日本実業団対抗選手権のマイルリレーは見事優勝を果たした。引退後も富士通に残り、会社員として働きながら陸上界を盛り上げる活動をしている。

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