羽生結弦「悲しみや傷との付き合い方を理解しながら前に進んできた」 『notte stellata』で示した震災を伝え続ける決意
東日本大震災発生から15年を迎えるのを前にアイスショー「羽生結弦 notte stellata 2026」が3月7〜9日に開幕。羽生結弦は15年間を経た今の気持ちをこう説明した。
「たしかに福島や宮城、岩手も復興が進んだところは進んだし、コミュニティが復活しているところもあると思いますが、そのまま取り残されている地区もある。『復興してきたよ』っていうなかにも、中身をのぞいてみたらぜんぜん復興していないというか......。元に戻るわけではないので。そういった意味ではずっとずっと応援し続けたいなという気持ちと、自分自身も被災した傷であったりトラウマみたいなものを、やっぱりずっとずっと抱え続けていくべきなんだなっていうことを、理解して付き合えるようになったかなと思っています」
『notte stellata』で新演目『Happy End』を披露した羽生結弦 photo by Sunao Noto / notte stellata 2026この記事に関連する写真を見る
【だからこそ強く生きている】
そんな心境で臨んだ今年の『notte stellata』での羽生の滑りにはこれまでと少し違う静謐(せいひつ)さが感じられた。湧き上がる感情を心の奥に押し込めて踊る静かな心が、見ている側にじわりと染み込んでくるような演技だ。そんな静かさはオープニング後の本郷理華や鈴木明子、無良崇人などの滑りにも感じられた。
第1部の最後に登場した羽生は、新演目『Happy End』を演じた。プログラムは、被災地の小学生から大学生までが所属する東北ユースオーケストラとのコラボレーション。この混成オーケストラは震災直後、坂本龍一氏の呼びかけで始まった被災地の学校にある楽器の点検・修理を行なうプロジェクトから派生し、編成されたものだ。
緊張感に包まれた、静かな滑り。楽器の音が重なり合って響くなかで、どこからか湧いてくる力のようなものも感じられるプログラムだった。
「自分自身の悲しみや傷への向き合い方だったり、付き合い方であったり、そういったことをちょっとずつ理解しながら前に進んできたつもりの15年間でした。その年月があったからこそ、今、逆にその傷に向き合おうという気持ちも出てきたり。逆にあれがあったからこそ、今こうやって学んで生きているんだ、強く生きているんだということを何かに表現したいと思って、『Happy End』は振り付けを自分でしました」
そして、『Happy End』に込めた思いをこう語る。
「ひたすら苦しいという感じです。(震災後に演じた)『天と地のレクイエム』はどちらかというと震災に直接気持ちを寄せて、当時のガレキがいっぱい積まれている道を見渡しているような光景を表現しながら、そこにひとつの魂を見つける感じでした。
今回は、自分自身の身体が蝕まれていったりとか、坂本龍一さんがこの曲を書いた時、ご自身が病に蝕まれていた頃だったとお聞きしていたのもあって......。ちょっとずつ復興はしているけどそのなかでところどころに残っている傷痕であったり、僕が練習で滑るアイスリンク仙台に残っている壁の傷などを少しずつ感じながら、それに蝕まれながら自分が苦しんでいるけど、最終的にはその傷も全部自分なんだと受け入れながら、演技が終わったあとに『次があるよ』と思えるようなプログラムにしたつもりです」
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著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。









