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【ボクシング】ウェルター級の日本の希望、佐々木尽を支えるのは71歳のトレーナー 3人の息子と一緒に世界の頂点へ

  • 会津泰成●取材・文・撮影 text & photo by Yasunari Aizu

 2025年6月、WBO世界ウェルター級タイトルマッチ。王者ブライアン・ノーマンJr.(米国)に挑んだ佐々木尽(八王子中屋)は、5回KO負け。日本人未踏、ウェルター級世界王座。その壁は想像以上に高く、厚かった。あれから8カ月――。先月19日、再起戦に臨んだ尽は、2回、左フック一閃で相手を沈めた。

 再び、日本人未踏の頂きを目指す24歳の現在地。そして、ともに戦う71歳のトレーナー、中屋廣隆の覚悟を追う。(4回連載/2回目)

八王子中屋ジムはトレーナーの中屋廣隆氏(左から2番目)と3人の息子で佐々木尽(中央)を支える八王子中屋ジムはトレーナーの中屋廣隆氏(左から2番目)と3人の息子で佐々木尽(中央)を支えるこの記事に関連する写真を見る

第2回./「History」――色褪せた赤いジャンパー

 2026年1月10日、八王子中屋ジムを訪ねた。

 JR八王子駅北口から、徒歩およそ10分。

 デパートや商業施設、飲食店がひしめき合う西放射線通り、通称"ユーロード"を抜けた国道16号線沿い。古びたビルの1階に、ジムはあった。大きなガラス面。鮮やかなオレンジ色の外観。どこか「古き良き時代のアメリカのジム」を思わせる。

「わざわざ遠くまで、ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げた佐々木尽は、リング上の印象とはまるで違った。

 挑発的な態度で相手を威嚇する姿から連想していた、やんちゃな若者ではない。笑顔が印象的。礼儀正しい好青年だった。

 2025年6月の世界戦では、とどめを刺された左フックで、後頭部をキャンバスに打ち付けた。

 自力では動けず、担架で運ばれてリングを降りた。精密検査の結果、脳内出血などの異常は確認されなかったものの、記憶は断片的となり、頭痛や吐き気に悩まされた。

「『絶対、勝てる』と自信満々でした。アメリカ合宿で現地の有力ボクサーとスパーリングをしても、『全然いける』って感触はあった。なのに、試合当日は浮き足立ってしまった。ノーマンJr.選手は、たしかに強かった。ただ、それ以前に、自分自身に負けた。経験値が圧倒的に足りませんでした」

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著者プロフィール

  • 会津泰成

    会津泰成 (あいず やすなり)

    1970年生まれ、長野県出身。93年、FBS福岡放送にアナウンサー入社。プロ野球、Jリーグなどスポーツ中継担当。99年に退社しライターに。第10回Numberスポーツノンフィクション新人賞受賞。主な著書に『マスクごしに見たメジャー 城島健司大リーグ挑戦日記』(集英社)、『歌舞伎の童「中村獅童」という生きかた』(講談社)、『不器用なドリブラー』(集英社クリエイティブ)など。

【写真】日本人未踏、ウェルター級世界王者を目指す佐々木尽

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