髙橋大輔には、優しさを極めて身につけた「強さ」がある (5ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 シングル最後の風景に、それは象徴されていた。フリーの演技が終わった直後だ。

「大ちゃん! 大ちゃん!」

 身体の芯を熱くし、目を潤ませた観衆が、こらえきれずに声を出す。その声が拍手と重なり、音で優しさが伝播し、温かく会場を覆う。それは永遠の一瞬だった。

 髙橋は、シングルスケーターとして生き抜いた。必死にその道を切り開いてきた男は、一度引退したあと、再びこの世界に戻り、「ようやくスケートが好きって言えます」と洩らしていた。ひとつの境地に達したのだ。

「来年(2020年)の全日本に戻ってこないとやばいですよね!」

 全日本選手権取材の最後、髙橋は快活な表情で言った。村元哉中とカップルを組み、2020年1月からはアメリカのフロリダでアイスダンサーとして始動している。

「シングルでは、五輪のメダルはもう無理で。わかりたくはないけど、長くやってきたので、それはわかって。アイスダンスは初心者だし、課題ばかりですが、少しの可能性はあるかなって。(村元と)お互い目指すところは、2022年北京オリンピックと決めて。大きな目標がないと頑張れないので、難しいけど、頑張りたいです」

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