髙橋大輔には、優しさを極めて身につけた「強さ」がある (4ページ目)
アイスダンサーとして新しい道を歩み始めている髙橋大輔 もし10年若かったら......と、髙橋は言う。しかしその10年で、彼は数々のドラマを作り続けてきた。どれもかけがえのない記憶だ。
五輪でのメダルも、世界選手権優勝も、GPファイナル優勝も、日本人フィギュア男子としてはすべて初だった。前十字靭帯断裂から復活し、競技を続けたことは、世間に知られている以上にたいへんなことで、アスリートとしての不屈さを示した。仕上げに、4年ぶりの復活で全日本の表彰台に上った。世界中を見渡しても、前人未到の記録だ。
彼はその優しさを極めることで、誰にもない強さを身につけた。
「シングルスケートがなかったら、今の自分はないです」
髙橋は優しい口調で言う。
「シングルしかしてこなかったので、自分にとって、それが何か、を答えるのは難しいです。いろいろな出会いを与えてくれて、人生を豊かにしてくれました。シングルに出会えて、幸せ者だったと思います」
彼はたえず、巡り会う人や迫りくる運命に感謝し続けてきた。その一本一本の糸が紡がれ、結ばれていった。巨大な野心や虚栄心よりも、謙虚さや無邪気さが、彼に力を与えた。
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