髙橋大輔には、優しさを極めて身につけた「強さ」がある (3ページ目)
――不器用にも映る人ですね?
あまりの律義さに、そう訊ねたことがあった。
「なんていうか、ズルするのが好きじゃない。たとえば列に並んでいて、あっちの方がすいている、っていうときでも、こっちでいいやって。要領よく生きる、っていうのが苦手で」
髙橋は、そう言って面映(おもは)ゆそうにした。醜いエゴが表面化しない。無垢な少年のようだ。
「スケートは、(最後の全日本後も)アイスダンスで現役を続けることになっていたので、自分の中で、"シングル引退"をそれほど大きく捉えていなかったんです。でも、みんなに『ラスト頑張れ!』ってたくさん言われるうち、『マジか、最後だ』って気づいて(笑)」
全日本後、髙橋はそう振り返った。涙をこらえきれなくなりそうながらも、聞き手の心情すら案じて答えていた。取材エリアが暗い空気になるのを、朗らかな性格の彼は好まない。
「全日本、自分が初めて優勝(05-06シーズン)して、14年も経ったんですねぇ。あの頃の自分は、14年経って、まだ滑っているとは思っていなかったと思います。あれからずっと、全日本はケガをしたときを除いてずっと出場してきて......。あ、忘れていました! しばらく引退していましたね」
心根の優しい男は、そこで小さな笑いを取った。
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