【フィギュア】復帰1年で世界女王のアリサ・リュウが語る「16歳での引退」「人生の優先順位」「恋しかった疾走感」
13歳で全米選手権を制覇し、ジュニア時代にはトリプルアクセルと4回転ルッツを跳んだ天才少女、アリサ・リュウ(19歳/アメリカ)。2022年北京五輪後の電撃引退、そして2年を経て復帰した今シーズン、またたく間に世界の頂点まで駆け上がった。
リュウ選手は、父親が卵子ドナーから卵子提供を受け、代理母を通して生まれた。5人きょうだいだが、全員が違う母親ということになる。新しい時代の家族形態のもとに生まれた彼女は、家族との関係をとても大切にしている。
そしてスケート観も、彼女の人生観を反映した非常に自立心の高い考えを持っている。そんな彼女の心の一片を、優勝した世界選手権後のインタビューで語ってくれた。
世界選手権後にアメリカ・ボストンでインタビューに応じたアリサ・リュウ photo by Noguchi Yoshieこの記事に関連する写真を見る
【ほしいものは何? "普通"を求めて決断】
ーー3年前の2022年世界選手権で銅メダルを獲得したあと、「フィギュアスケートの目標が達成できました」「もうスケートはやりすぎた」という発言がありました。まだ16歳でしたが、なぜそう感じていたのでしょう。
アリサ・リュウ(以下同) もうスケートだけの生活に飽きてしまい、新しいことに挑戦したかったんです。物心つく前からスケートだけの人生だったので、自分の足で人生を生きてみたかったのだと思います。
ーー引退する前のリュウ選手にとって、スケートはどんなものでしたか?
スケートは私にとって仕事でした。とくに、13歳で全米選手権を優勝してからは、自分がやりたくてやっているなんてまったく思えませんでした。もちろん滑ることは好きですが、試合に向けて準備していくということは、仕事でしたね。トレーニングもあまり好きじゃなく、試合の完璧な準備ができていませんでした。ただ、試合に出れば旅行できて、いろいろな友だちに会える。それだけが楽しみでした。試合そのものには興味がなかったんです。
ーーそれにしても2022年、16歳での引退はかなり早く感じました。引退後はどんな生活になりましたか?
2022年の世界選手権後に「今、一番ほしいものは何?」と考えました。そうしたら、大学生になる前に、友人や家族と一緒に普通に過ごしたかったんです。そういう普通の子どもとしての時間を経験したことがなかったから、このままでは先に進めないと思いました。大学生になったら、引っ越して、家族や幼なじみと暮らす生活が終わり、新たな人生を歩むことになるので、その前に決断しました。
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著者プロフィール
野口美惠 (のぐち・よしえ)
元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、
ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。 日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯 同。ソチ、平昌、北京オリンピックを取材した。主な著書に『 羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『 伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。 自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。20 11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝。