【ミラノオリンピック】千葉百音「いけるところまでいってやろう」 メダル獲得へのカギは「落ち着き」マインド
2月17日、ミラノ(現地時間)。ミラノ・コルティナ五輪、フィギュアスケート女子ショートプログラム(SP)は百花繚乱の煌(きら)めきを放った。
中立選手として出場するロシア国籍のアデリア・ペトロシアンがあえて構成を抑えた完璧な演技で暫定トップに立つ。フリーでは4回転やトリプルアクセルで勝負をかけてきそうで不気味な気配をただよわせていたが、日本の新星・中井亜美(TOKIOインカラミ)がはつらつとした演技で会場を虜にし、トリプルアクセルを成功させて逆転する。アリサ・リュウ(アメリカ)、坂本花織は中井のスコアを超えられなかったが、それぞれ世界女王の貫禄を見せた。
その決戦の最終滑走、パープルの衣装で燦然(さんぜん)とリンクに入ったのが、千葉百音(20歳/木下グループ)だった。
SPで好演技を見せ、4位発進となった千葉百音 photo by Sunao Noto / JMPAこの記事に関連する写真を見る
「絶対に遂行しないといけないルーティン。おかげで、ちょっと緊張をゆるめることができましたね」
千葉は滑走直前の一幕をそう振り返っている。リンクサイド、いつもよりもやや遠かった柵越しに、濱田美栄コーチとお互いがジャンプし跳びついて手を握り、健闘を誓い合っていた。その"儀式"によって、彼女は緊張から解き放たれたようだったーー。
【重圧を跳ねのけ拍手喝采の演技】
『ラストダンス』の旋律に乗って、千葉はしめやかに滑り出している。
「6分間練習が一番、"ガチガチ、フワフワ"な感じでした。そこから、本番で自分の感覚を戻せてよかったです。どんな感覚か......言葉にしがたいんですけど、落ち着くっていうのが近いかな」
千葉はそう回顧したが、堂々とした演技だった。静かな曲の立ち上がりで、最初のジャンプは会場も固唾を飲んで見るなか、どうしても緊張が走る。しかし彼女は3回転フリップ+3回転トーループという大技を難なく決めた。ダブルアクセルも危なげなかった。フライングキャメルスピンはレベル4で、一本にまとめた髪を揺らした。
そこから曲調が一気に明るくなって、愛する人への気持ちを全開する思いを込め、"運命を引き寄せてやる"という気概が浮き彫りになる。3回転ルッツはアンテンションがついたが、会場は全ジャンプ成功を祝福するように熱気が渦を巻く。
スピン、ステップも質が高く、すべてレベル4だった。観客全体とダンスを踊るような幸福感が共有され、最後のレイバックスピンからフィニッシュポーズ後、彼女は空気が震えるような拍手喝采を浴びていた。
「ルッツを降りてからは、大勢の観客のみなさんとラストダンスを楽しめて幸せでした」
千葉は湧き上がる喜びをもてあますように言った。最終滑走は緊張のコントロールが難しいのだが、彼女はプレッシャーとうまく向き合っていた。世界ランキングで常に1、2位を争うようになった実績は飾りではない。
「(最終滑走という)滑走順が決まって、夜にはマインドセットできていたんです。でも、6分間練習で緊張の波が押し寄せてきていました」
千葉はそう言って、こう続けた。
「これまで何かと最終滑走経験は多かったので、緊張の波に飲まれたショートも少なくなかったんですが、そういう経験もあって、いい方向にいけたのかもしれません。ただ、その時その時でいつも新しい経験をしているわけで、今回は『オリンピックのショートという新しい経験をいいものとして積むぞ』という切り替えがよかったんだと思います」
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著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。









