【新連載】ウナギ・サヤカはWWE帰りの里村明衣子の引退会見に「マジかよ!」 即ワンマッチを決断し、リング上で愛を感じた
ウナギ・サヤカ 東京ドームへの道 vol.1
■前編
東京ドームでの自主興行を目指すウナギ・サヤカ photo by Yasui Shinsukeこの記事に関連する写真を見る
ここに一冊の本がある。『井田真木子と女子プロレスの時代』(井田真木子/イースト・プレス)――。1986年から88年にかけて、女子プロレス専門誌『DELUXEプロレス』で行なわれた、ノンフィクション作家の井田真木子(故人)による長与千種へのインタビュー連載が収録されている。
そのやり取りは、紋切り型の一問一答ではない。ある時は、長与が井田に「散歩しましょ」と提案する。人がいなくて、散歩しながら話せるところ――青山墓地にふたりは向かった。
「『誰も信じてくれないよね』と長与がいう。『こんな暗いところでこそこそ話すのが仕事だなんて』。私たちは、警備員のサーチライトに照らされながら必死で言い訳している自分たちを想像し、ひとしきり笑いころげた。喫茶店でのインタビューで針のように尖っていた長与の神経と、自己否定の沼に沈んでいた気分が、この笑いでやや寛ぎ、もちなおす」(『井田真木子と女子プロレスの時代』より抜粋)
ふたりは時に笑い合い、時に鋭く探り合い、魂の交流を繰り広げる。その自由でお洒落なやり取りに、当時のティーンエージャーたちは夢中になったという。
10年前にこの本を読んでから、「いつかこんな連載をやりたい」とずっと思っていた。しかし私は井田真木子のような天才ではないし、今の女子プロレス界に長与千種のようなモンスターもいない。当時とは、時代も違う。
半ば諦めかけていたのだが、私はこの本を、ウナギ・サヤカに見せてみようと思った。物語は、そこから始まる――。
【東京ドームでの自主興行を目指す理由】
ウナギ・サヤカ(以下、ウナギ):何これ! 辞書やん!
――分厚いですよね。799ページです。
ウナギ:すごいな......。
――この本に収録されている、井田真木子さんによる長与千種インタビューが私の憧れなんです。でも、今の時代にこれをやるのは難しいだろうなと思っていたんですけど、ウナギさんが「東京ドームで自主興行をやりたい」と言った時、「あ、この人とならできるかも」と思ったんですよね。
ウナギ:え、うれしい......。
――東京ドームというのは、初の自主興行(2024年1月7日、後楽園ホール)の時、思いつきで?
ウナギ:思いつきっていうか......、みんなに「自主興行をやってほしい」って言われて、後楽園でやってみて、マ、ジ、で、しんどかったんですよ。興行を迎えるまでの期間、めっちゃしんどくて。「こんなこともやらなきゃいけないんだ!」っていうことが、めちゃくちゃあるんです。
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著者プロフィール
尾崎ムギ子 (おざき・むぎこ)
1982年4月11日、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業後、リクルートメディアコミュニケーションズに入社。求人広告制作に携わり、2008年にフリーライターとなる。プロレスの記事を中心に執筆し、著書に『最強レスラー数珠つなぎ』『女の答えはリングにある』(共にイースト・プレス刊)がある。