両親の激しい口論。父が発した衝撃の言葉......。傷ついた朱里が辿り着いた「リング」という輝ける場所 (2ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko
  • 林ユバ●撮影 photo by Hayashi Yuba

父から「俺の子じゃない」

 朱里は1989年、神奈川県海老名市に生まれた。日本人の父とフィリピン出身の母を持つ。3つ上の兄がいるが、小学校6年生の時に両親が離婚し、兄は父に、朱里は母についていったため、大人になるまで会うことはなかった。

 父はスポーツが好きで、休みの日には朱里を連れてよく走りに行った。仲がいい父と娘だった。しかし両親が離婚する時、彼女は聞いてしまった。父が母に「俺の子じゃない」と言うのを......。そう話しながら「涙もろくて」と言い、ボロボロと涙を流す。

「今になってみれば父の気持ちもわからなくもないんです。離婚の話を進めていくのも相当なストレスだし、イライラしてパッと出ちゃった言葉だと思う。本当は思ってもいないことを言ってしまうことってあるじゃないですか。父がわたしのことを愛してくれていたのは間違いない。けど子供だったからすごく傷ついて、大嫌いになってしまった。そこから大人になるまで、10年くらい連絡を取りませんでした」

 高校生の時、女優になるという夢ができた。しかし女手ひとつで育ててくれた母のために、公務員になって生活をラクにしてあげたい気持ちがあった。そんななか、朱里は若気の至りで高校卒業後に家出をしてしまう。

 漫画喫茶で寝泊まりし、バイトを4つ掛け持ちしたこともあるが、なんとか芸能事務所に入り、舞台やモデルの仕事をするようになった。女優になりたいと思ったきっかけは、大竹しのぶの舞台。狂気的な役演じる大竹を見て、「自分もやりたい」と思った。

 役者のトレーニング中、ひとり芝居をするレッスンがあった。朱里が演じたのは、大好きな男性を刺し殺す女性。「自分を解放しておかしい人になりたいというか、そんな気持ちがあったんです」という。

「両親が離婚して、学校では理由はわからないけど無視されたこともありました。ママは夜働いていたのでわたしはひとりでご飯を食べていたのですが、寂しかったですね。そういう時期にかわいそうな自分に酔うみたいなところがあって、家の机をナイフでガンガン刺したりしてたんです。ダークな部分があったんですよね。それをお芝居で表現したいと思ったのか......。そういうものを演じてみたかったんです」

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