レアル・マドリードを新境地に導いたベリンガム 表舞台と裏方を同時に行なえる逸材 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【レアル・マドリードのスターコレクション】

 レアル・マドリードは、2023-24シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)に優勝。チャンピオンズカップ時代を含めて15回目の偉業だ。ここ11シーズンで優勝6回。欧州トップクラブの実力が均衡している時代に、この勝率は驚異的だ。

 決勝での抜群の勝率、劇的勝利はもはやお家芸の域。異常なほどの勝負強さ。その時代の旬のスターを獲得し、ポジションが重なっても頓着しないスターコレクション。このふたつが伝統となっているが、その始まりもディ・ステファノだった。

 現在、ホームスタジアムにその名が冠されているサンティアゴ・ベルナベウ会長は、バルセロナとの壮絶な争奪戦の末にディ・ステファノを獲得すると、27歳のアルゼンチン人を中心としながら、バロンドールを受賞したレイモン・コパ(フランス)を獲り、ブラジル代表をW杯初優勝に導いたジジを加え、「マジック・マジャール」と呼ばれた史上最強ハンガリー代表のエースだったフェレンツ・プスカシュまで獲得した。

 現在のフロレンティーノ・ペレス会長の第一次政権(2000年~2006年)では、ルイス・フィーゴ(ポルトガル)、ジネディーヌ・ジダン(フランス)、ロナウド(ブラジル)、デビッド・ベッカム、マイケル・オーウェン(以上イングランド)を次々に獲得して「銀河系」と呼ばれるチーム編成を行なった。

 獲得したスーパースターを中心にチームは形成される。ポジションや役割の重複をどう調整するかは現場の仕事だ。かつてのコパのようにポジションを左遷されるケース、クロード・マケレレのようにスターたちの守備の穴埋めに過剰労働を強いられる、あるいはBBC(ベンゼマ、ベイル、クリスティアーノ・ロナウド)を成立させる潤滑剤として使われたアンヘル・ディ・マリアのような場合もある。スターを集めて機能させるには、スターのなかの誰かに縁の下に入ってもらうというのが主な解決策だった。

 ベリンガムを獲得した2023-24シーズン、カルロ・アンチェロッティ監督は「ベリンガム・システム」で開幕を迎えている。

 ベリンガムをトップ下に置く4-4-2。ボルシア・ドルトムント時代よりも攻撃的なポジションを任され、期待に応えてベリンガムは重要な得点を重ねた。終了間際のゴールは印象的で、その勝負強さはチームの伝統であり、ディ・ステファノを思い起こさせるものでもあった。華やかなゴールよりも勝負を決める地味な得点。終盤に「そこ」にいるスタミナがもたらしていて、ハードワークを貫徹できる「労働者」の資質が示されている。

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