レアル・マドリードを新境地に導いたベリンガム 表舞台と裏方を同時に行なえる逸材 (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【表舞台と裏方を同時に行なえる逸材】

 現在、レアル・マドリードの監督を務めるカルロ・アンチェロッティは、スター軍団を率いるのにうってつけの監督である。

 フロントと揉めることはなく、与えられた高級素材を的確に料理する。戦術的なディテールにも詳しいが、素材をこねくり回してダメにしてしまう愚は犯さない。メインを誰にするかを間違えない。そして多少時間は要しても、最終的には最適なバランスを見出して調整を完了する。

 ただ、今回に関しては、調整にそれほど苦労はしなかったと思われる。

 ルカ・モドリッチとトニ・クロースの時代からバトンを渡された世代には、ベリンガムと似た資質を持つ万能型が揃っていたからだ。スターのなかから犠牲者を作らずにすむ。表舞台と裏方を同時に行なえる逸材に恵まれ、それを生かした。

 エドゥアルド・カマビンガ、フェデリコ・バルベルデはいずれも攻守万能。FWのヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴも献身的な守備ができる。銀河系やBBCの時のような、守備をどうするのかという課題がない。あるのは混乱を整理する作業だけ。

 システムとして行き着いた答えは4-2-4だった。ベリンガム、バルベルデ、ヴィニシウス、ロドリゴが4人のアタックラインを形成する。攻撃時の自由は保障されていて、それぞれの素材のよさを出すことを優先。守備時は4-4-2。ただ、自由に攻撃する分ポジションの入れ替わりが頻発するので、誰がどこを守るかのガイドラインが必要だった。

 例えば守備時の2トップがベリンガム、バルベルデなら、左サイドをヴィニシウス、右をロドリゴが守る。ブラジル人の2トップならベリンガムが左、バルベルデが右。ただし、2トップがベリンガムとヴィニシウスになってしまうと、バルベルデとロドリゴのどちらが左へ下がるかで混乱が生じやすい。

 守備時に座るべき4つの椅子を重複なく埋めるためのガイドラインは、ベリンガム&ヴィニシウス、ロドリゴ&バルベルデのペアを崩さないこと。そこさえ明確にすれば、自由に攻めて自由に守るシステムが出来上がる。

 レアル・マドリード以外のチームなら、こんな調整は必要ない。そこまでポジションがぐちゃぐちゃになる恐れは最初からないからだ。決まった場所で決まった仕事をする、欧州ではマニュアル化が常態化している。だが、緻密すぎる監督はレアル・マドリードには向かない。素材を殺す緻密さは不要、余白を大きくして「人」に任せる度量が決め手だ。その点、アンチェロッティは「男前」な采配ができて、バグを回収するシンプルな一手を打てる。

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