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【Jリーグ】巻誠一郎に力を与えた「オシムの言葉」 崖っぷちの0-2でも「ここからがチャンス」と思うことができた (3ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Yuhei Harayama

【シナリオはすでに始まっていた】

 しかも僕らの試合は、ほかの2チームの試合よりも1時間早く始まったんですね。とにかく勝つしかない状況でしたが、僕の2ゴールも勝利には結びつかず、2-3で負けてしまい、その時点で降格を覚悟しました。ところが1時間後にヴェルディが負けて、引き分け目前だったジュビロも終了間際に失点して負けたんです。

 僕らはあの時、一度死んだんですよ。でも、首の皮1枚つながった。だから「フクアリの奇跡」のシナリオは、すでにこの時から始まっていたんだと思います。

 最終節までの1週間をどのように過ごしたかは、まるで覚えていないんです。あのシーズンのことはいろんなことを鮮明に覚えているんですけど、最後の1週間だけは全然覚えてないんですよね。ゾーンに入っていたのか、プレッシャーに押しつぶされそうになっていたのかはわからないですけど、どんなことを考えていたのか、今でも思い出せないです。

 ただ、追い込まれたシーズン終盤は、家でもずっと暗い顔をしていたので、妻にはよく怒られました。「家庭にまで持ち込まないで」って。家族には本当に迷惑をかけたなと思いますが、プレッシャーを相当感じていたんですよね。

 当日の朝のことは、鮮明に覚えています。人生のなかでも数回しかないんですが、自分のプレーのイメージがすごく湧く時があるんですよね。そういう時はだいたい点を取ったり、活躍する時なんですけど、あの日の朝もその感覚がありました。

 スタジアムに着いて、ピッチを見た時に、もう「これだ」と思ったんですよね。勝てるというか、やれる感覚がイメージできたんです。それくらい感覚が研ぎ澄まされていたんだと思います。

 ただ、やれるという自信があった一方で、当然、プレッシャーもありました。試合が始まると、チーム全体に硬さがあるなとも感じました。

 特に前半は、想像以上にみんなが硬かった。恐る恐るプレーしているような感じで、そのなかでセットプレーから先制点を奪われてしまい、0-1で試合を折り返すことになったんです。

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