ヤクルト山田哲人も愛用の「ドナイヤ」がメジャーへ! 村田社長が語る「無名グラブが世界に届くまで」
偶然の出会いが導いた夢〜村田裕信とドナイヤの軌跡(前編)
『ドナイヤ』は、社長の村田裕信(ひろのぶ)がひとりで切り盛りする野球用グラブメーカーで、ヤクルト・山田哲人が愛用していると聞けばピンとくる人も多いはずだ。だがそのグラブが海を渡り、メジャーリーガーが試合で使っていたことを知る人は少ないのではないか。村田が言う。
「僕もスポーツ店の方から『メジャーの選手がドナイヤのグラブを使っていますよ』と写真を見せてもらって、初めて知ったくらいですから(笑)」
ドナイヤの社長であり唯一の社員でもある村田裕信氏 photo by Shimamura Seiyaこの記事に関連する写真を見る
【海を渡った無名グラブ】
事の始まりは昨年、上沢直之(現・ソフトバンク)がウースター・レッドソックス(3A)に所属していた時期に、チームメイトのエディ・アルバレスから「日本にはマニアックな内野手用のグラブがあるじゃないか」と質問されたことだった。
アルバレスのメジャー通算成績は、4年で63試合に出場して1本塁打だが、経歴は異色だ。2014年のソチ冬季五輪で、ショートトラックスピードスケートで銀メダルを獲得すると、2021年の東京夏季五輪では、野球のアメリカ代表として銀メダルを手にしている。
アルバレスから質問された上沢は、日本ハムのコーチである谷内亮太にLINEで連絡。谷内がその経緯について説明してくれた。
「ドナイヤのグラブはプロ野球選手も市販品を使うので、最初に注文が入った時に、僕がスポーツ店で購入してアメリカに送りました。好評だったらしく、追加でもう1個送った感じですね」
谷内も現役時代に「7年くらい使いました」とドナイヤのグラブを愛用していた。
「耐久性があるし、信頼感もあったので、使ってよかったと思っています。アルバレス選手が気に入ってくれたのは、革質が好みだったんじゃないかと。外国人選手のグラブって、革が強いというかしっかりしているので、そこにマッチしたんじゃないかな」
アルバレスは昨年9月、メッツ移籍と同時にメジャー昇格。ドナイヤのグラブもメジャーでお目見えとなったのだった。
「大々的な宣伝もしていないなかで、こうして人と人のつながりで世界に広がれば、僕個人はすごくいいグラブだと思っているのでうれしいですね。社長は大変でしょうけど(笑)」
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著者プロフィール
島村誠也 (しまむら・せいや)
1967年生まれ。21歳の時に『週刊プレイボーイ』編集部のフリーライター見習いに。1991年に映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となった野球場を取材。原作者W・P・キンセラ氏(故人)の言葉「野球場のホームプレートに立ってファウルラインを永遠に延長していくと、世界のほとんどが入ってしまう。そんな神話的レベルの虚構の世界を見せてくれるのが野球なんだ」は宝物となった。以降、2000年代前半まで、メジャーのスプリングトレーニング、公式戦、オールスター、ワールドシリーズを現地取材。現在は『web Sportiva』でヤクルトを中心に取材を続けている。