松尾汐恩が振り返るドラフト、運命の日 指名の瞬間「じ、自分や」と顔が引きつり、恩師の言葉に身が引き締まった

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Sankei Visual

松尾汐恩〜Catch The New Era 第7回

 ちょうど1年前、ドラフト会議を直前に控えていた横浜DeNAベイスターズの松尾汐恩は、どんな思いで日々を過ごしていたのだろうか。

「不安な思いが大きかったです。昨年のドラフトは、たくさんの球団が1位指名を公言していて、自分は無理なのかなって......。上位指名へのこだわりですか? 自分のなかにはありました。やっぱり1位で(プロに)行きたいなと思っていたので」

 昨年のドラフト会議は開催前日までに、DeNA、阪神、ロッテを除く9球団が1位指名を公表するといった過去にない状況だったが、そのなかに大阪桐蔭高の松尾の名前はなかった。報道では、将来性豊かな捕手を求めていたDeNAが松尾を1位指名するのでは......と伝えられていたが、当の本人はその情報をどのように思っていたのだろうか。

DeNAから1位指名を受け、笑顔の松尾汐恩(写真左)と西谷浩一監督DeNAから1位指名を受け、笑顔の松尾汐恩(写真左)と西谷浩一監督この記事に関連する写真を見る

【プロで勝負したいです】

「正直、あまり信じられないというか、参考にしてはいませんでしたね。こればかりはわからないことですから」

 そう言うと松尾は苦笑した。自分の野球人生を天命に委ねる運命の日。プロ志望届を提出してからの日々は、不安を抱えながらも瞬く間に過ぎていったという。

 そもそも松尾が"プロ一本"の覚悟を決めたのは、いつのことだったのだろうか。

「夏の大会のあと進路面談があって『自分はプロで勝負したいです』と伝えました」

 大阪桐蔭高の西谷浩一監督からは、早い段階で「大学ないし社会人を経てからプロに行ったほうがいいんじゃないか」と言われていたが、松尾の意思は固かった。

「まったく迷いはありませんでした。小さい頃から目指していた場所でしたし、行けるのであれば早くそこで勝負したいという気持ちは強かったですからね」

 高校通算38本塁打を放ったパンチ力、そして走攻守揃った新時代の捕手。各球団の評価は高く、上位指名が確実視されていた。松尾は早々にプロ志望届を提出すると、下級生にまざり毎日のようにグラウンドで汗を流した。これからプロの舞台で戦うために、そして心の不安を振り払うかのようにトレーニングに打ち込んだ。

1 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る