松尾汐恩が振り返るドラフト、運命の日 指名の瞬間「じ、自分や」と顔が引きつり、恩師の言葉に身が引き締まった (3ページ目)

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Sankei Visual

 しかし喜びもつかの間、これから進んでいく世界を思うと気持ちが引き締まった。

「上位で行けると思っていなかったなかで、ドラフト会議後、西谷監督からは『やったな!』と声をかけていただきました。うれしかったですね。そして『これから頑張っていこう!』と言っていただいた時、『よし、やるぞ!』と、すぐに切り替えることができたんです。今後は、これまで以上に危機感を持って進んでいかなければいけない。ですから西谷監督には本当に感謝したいですね」

 指名されたことでプロへの門戸は開いたが、あくまでもスタートラインに立ったにすぎない。これから待ち受ける戦いに向けて、恩師の言葉を胸に、松尾は邁進していく。

【プロの厳しさを実感】

 ところで、松尾がプロになったなと実感したのはどのタイミングだったのだろうか。

「やっぱりファンフェスティバル(2022年11月26日)の時ですかね。横浜スタジアムでファンのみなさんの前で挨拶をさせてもらい、あと首脳陣の方々やチームの先輩方とお会いして、ああプロになったんだなって思いましたね」

 翌年になるとすぐに入寮し、新人合同自主トレからプロ生活がスタートした。

「あっという間の1年でしたね。野球漬けの毎日は、身体の疲労もありましたが、好きな野球をやらせていただいているという喜びを忘れないように過ごす日々でもありました」

 プロの世界を肌で知り、向上心を持って過ごした1年間。未来への可能性を見た一方で、初めてプロの世界を去っていく選手たちの現実も見た。

 10月1日のロッテとのファーム最終戦(横須賀スタジアム)では、ベテランの田中健二朗や平田真吾、そして年齢の近い若手選手たちのDeNA最後のプレーを見守った。

「本当に厳しい世界だと思いました」

 松尾は少し重い口調で、そう言った。

「先輩の健二朗さんや平田さんからは、キャッチャーとしていろんな経験をさせていただきました。たくさんの会話も含め、いい影響を受けたので、先輩方の姿を忘れることなく、今後の自分の糧にしていきたいと思います」

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