松尾汐恩が振り返るドラフト、運命の日 指名の瞬間「じ、自分や」と顔が引きつり、恩師の言葉に身が引き締まった (2ページ目)

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Sankei Visual

 そして運命の日となった10月20日、松尾はいつものように学校に登校した。「本当に指名されるのだろうか......」という不安な思いは消えなかったが、そんな気持ちを落ちつかせてくれたのが、学校の先生や友人たちだった。

「いろいろな人に『頑張れよ』って言ってもらったり、仲間たちからはいじられたりして、和やかな気持ちにさせてもらったのを覚えています。本当にありがたかったですね」

 まだ18歳。自分の人生がかかった大一番を前に平常心でいられるはずもないが、ここまできたら腹をくくるしかなかった。

 授業を終えると夕方から始まるドラフト会議のために、校内の会見場へ移動した。松尾は「会場に入ってからソワソワしました」と、その時のことを振り返る。おぼろげだった自分の未来が明確になるまであとわずか、気持ちは自然と昂った。

【名前を呼ばれた瞬間、松尾は...】

 ドラフト会議が始まると、早速、粛々と1位指名の名前が読み上げられていく。そしてDeNAの順番が来ると『松尾汐恩 大阪桐蔭高校』と呼ばれた。

 その瞬間、松尾は少し驚いたような表情を浮かべた。

「正直、呼ばれるか呼ばれないか自分でもわからなかったので、『おっ!』て感じでしたね。あとでその時の映像を見たら、『じ、自分や!』みたいな感じで顔が引きつっていました」

 懐かしそうに松尾はそう言うと、笑顔を見せた。

「次の瞬間、指名していただいて感謝の気持ちが湧いてきました。正直プレッシャーもありましたし、やっぱりホッとした気持ちが強かったのを覚えています。ようやく不安から解き放たれたって」

 その後、仲間たちに胴上げをされ、松尾の周囲は歓喜に包まれた。宙を舞っている時、胸の内からうれしさがこみ上げてきた。

「あれが一番のいい思い出ですね」

 自分が野球をすることで、応援してくれる人が喜んでくれたり、笑顔になってもらえるのが、松尾は好きだった。年に12名しか選ばれないドラフト1位という栄誉。祝福をしてくれた家族をはじめ、たくさんの人に恩返しができて、松尾は安堵した。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る