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なぜイチローは日常行動のほぼ全部をルーティーン化していたのか 50冊を超える取材ノートに書き留められたお宝発掘のヒント (2ページ目)

  • 小西慶三●文 text by Konishi Keizo

【50冊を超えた取材ノート】

 ではそんな鈍感で、要領の悪い自分は何ができるのか。心がけたのは試合前、試合後の取材談話や雑談で気になった言葉をくまなく書き溜め、シーズン後のインタビューでそれらの真意をひとつずつ確かめることだった。

 イチローは自分の考えや技術について、他者から尋ねられない限り絶対に口にしない。だから取材者はできるだけ多く、本人にぶつける質問のタネを集めなければならない。前述の方法ではすぐに正解がわからなくても、時間をかければ何とか答えのようなものに突き当たる可能性はあった。

 各関節の可動域を広げることと、血流量を増やすことを特殊なマシンでのトレーニングの主眼に置く。重いウエイトを使って筋肉を大きくしない。それらはいつも思いどおりに身体を動かせる状態に保ち、イメージをより正確に動作に落とし込みやすくするため。

 毎日同じものを食べるなど、日常行動のほぼ全部をルーティーン化する。その徹底は、日によって生じるわずかな体調変化を感じとり、故障予防や自身のプレー内容、結果の判断材料にするため。

 今ではかなりの人に知られるようになった、それらアスリートとしてのきわ立つ特徴は、自分を含めた日本人メディアがイチローという"秘境"からコツコツと掘り起こしてきたことの一部だと思う。

 興味深いコメント、気になったデータや記録などを書きとめたB5版ノート(50頁)はすでに53冊目となった。現在も公式戦中はゲーム前にTモバイル・パークで若手選手たちとキャッチボールし、外野でフリー打撃の打球を追うイチローがいる。現役時代に比べてやや柔らかくなった印象だが、彼と話す時は今も気持ちが張る。
 
 最近あったトレードや日本の高校野球に関する話題、前夜のマリナーズの試合でのターニングポイント......聞きたいことはいくらでもある。イチローという秘境には、まだ未開区域が残っている。そこにはきっと、まだ多くのお宝が眠っているはずだ。

(文中敬称略)

著者プロフィール

  • 小西慶三

    小西慶三 (こにし・けいぞう)

    1966年大阪府生まれ。関西学院大学卒業後、1991年に共同通信社入社。1994年からオリックス・ブルーウェーブ(当時)を担当し、本格的に野球記者のキャリアをスタートする。その後、西武ライオンズ担当などを経て2000年12月、米ワシントン州シアトルに転勤。2001年に全米野球記者協会(BBWAA)初の日本人会員となる。イチロー氏の現役時代はオープン戦などを含め年間平均200試合近くを現場で取材。現在もシアトルを拠点にMLB取材を続けている

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