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【ドラフト】西武でプレーする弟を追って 無名の控え投手だった冨士隼斗がプロ注目の右腕になるまで (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

「合宿中、冨士と同部屋だったんですけど、どうやったら速いボールを投げられるのかと聞いたら、『背骨をしならせるように使え』とアドバイスをもらって。正直言って『ワケわかんない』と思ったんですけど、翌日の紅白戦にそのイメージで投げたら150キロが出たんです。自分でもビックリしました」

 名門大学のエースも驚くような、隼斗の投球技術への知識。それは無名の控え投手からプロ注目選手へと進化するなかで積み上げてきた、無形の財産なのだ。

【自分はもっと成長できる】

 弟の大和もまた、隼斗から影響を受けた投手のひとりだ。実家で夕食を終えると、隼斗は大和に投球フォームのレクチャーをすることがあったという。大和は1年前、こう語っている。

「兄は大学でケガをした時に、体の使い方や練習法をたくさん調べていました。体をコントロールできるようになって今があると言っていて、兄からいろいろと教わっています。とくに言われたのは、『胸のしなりを使えていない』ということ。メディシンボールを使って胸郭を柔らかく、強く使えるトレーニングをするようになって、球持ちやしなりが出てきました」

 大和はトップで左ヒジが落ちるフォームで、一般的には「ケガをしやすい」と見られがちだ。しかし、隼斗から「大和は胸郭を広げる投げ方だから、トップでヒジの位置が低くなるのは自然だよ」と言われたことで、大和は自身の投げ方に自信が持てたという。高校卒業までに、大和が肩・ヒジを痛めたことは1回もなかった。心強い兄の存在も、ひとつの要因だったに違いない。

 隼斗の試合前の準備を見ていると、大きな違和感を覚える。キャッチボール中、ほかの投手陣が投げる距離をどんどん広げていくなか、隼斗は20メートルを越えた距離から動こうとせず、延々と剛速球を投げ込んでいくのだ。

 試合前に遠投をしない理由を聞くと、隼斗はこう答えた。

「自分の場合、遠投をしてしまうと真っすぐがシュート気味になってしまって、ボールが垂れたり引っかけたりするんです。だから近い距離からボールの強さを意識して、投げるようにしています。大学の時からずっと、この調整法を続けています」

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