「二刀流への疑問」を吹き飛ばした大谷翔平の「1試合3本塁打&10奪三振」 同僚も「彼はマイケル・ジョーダン」と感嘆
同一試合3本塁打&10奪三振を果たした史上初の選手となった大谷翔平 photo by Getty Images
後編:大谷翔平とウィリー・スタージェル
10月17日(日本時間18日)、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平は地区優勝決定シリーズ(対ミルウォーキー・ブルワーズ)第4戦で3本塁打、投げては7回途中まで2安打無失点・10奪三振で勝ち投手になるという、MLB史に残るパフォーマンスを見せた。
そのハイライトとなった2本目の本塁打は、左打者としてはウィリー・スタージェル以来52年ぶりのドジャー・スタジアムでの場外弾となったが、大谷はなぜポストシーズン、しかもワールドシリーズ進出をかけた戦いのなかで、このように爆発したのか。
その背景には、大谷がこれまで自身に向けられてきた批判をことごとく覆す根源にあった "怒り"があったように思える。
【チームメートとタッチする前に突然方向を変え......】
それにしても、なぜ地区優勝決定シリーズという大舞台で、大谷翔平の場外弾が飛び出したのか。筆者は、大谷翔平の"怒り"がついに爆発したのだと思っている。思い出すのは、今年8月24日、サンディエゴでのパドレス戦での出来事だ。首位攻防の重要な3連戦にもかかわらず、大谷は2試合連続で無安打。最後の試合も結果が出ていなかった。そのとき、ダグアウトのすぐそばに座っていたパドレスファンの"ヤジ将軍"が、大谷に向かって叫び続けていた。
「次は10打席ノーヒットのやつだから楽勝だぞ!」
そんな言葉を、試合中ずっと浴びせていたのだ。しかし9回、ドジャースが7対2とリードした場面で、ドラマが待っていた。1死走者なしの第5打席、相手は松井裕樹。大谷は高めの直球を豪快に右翼スタンドへ叩き込んだ。ダイヤモンドを一周した大谷は、ベンチ前でチームメートとタッチする前に、突然方向を変えた。一直線に"ヤジ将軍"のもとへ駆け寄り、鋭く睨みつけながら手を差し出したのだ。驚きのハイタッチに、スタンドは騒然となった。さらに試合後、大谷は再びグラウンドに姿を現し、そのファンともう一度ハイタッチを交わした。相手も呆気にとられ、目を丸くしていた。
そのヤジ将軍ことビリー・ジーン氏は、翌日こう語っている。
「俺はパドレスファンだから気持ちは変わらないけど、大谷のことを好きになったよ。彼は俺を黙らせた。文句なしにマスターだし、心から尊敬する」。この時も大谷の心に火がついた。怒りが力へと変わったのだ。
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著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

