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「二刀流への疑問」を吹き飛ばした大谷翔平の「1試合3本塁打&10奪三振」 同僚も「彼はマイケル・ジョーダン」と感嘆 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【堂々とルース超えの1試合3本塁打&10奪三振はMLB史上初】

 もっとも、私たちは知っている。大谷がプロとして歩んできた道のりは、常に「二刀流は無理だ」と言われ続けてきた歴史そのものだということを。しかし彼はその声に反発し、努力で乗り越え、結果として唯一無二の存在となった。そして今年も打っては55本塁打、OPS(出塁率+長打率)1.104、投げては14試合に登板し、47イニングで防御率2.87、62奪三振、9四球。4度目のMVPは当確と言われるなかで、再び「二刀流への疑問」が投げかけられていた。怒りは静かに蓄積し、限界に達していたのだろう。そして10月17日、怒りがついに"大噴火"となって現れた。

 ちなみに、1893年にマウンドの距離が現在の位置(本塁から60フィート6インチ=約18.44メートル)に定められて以来、1試合で10奪三振を記録した投手は1550人、1試合で3本塁打を放った打者は503人いる。だが、この両方を同じ試合で達成した選手は、史上ただひとり。大谷である。しかも、今回はあのベーブ・ルースすら超えた。ルースは大谷の前任者とも言うべき二刀流スターだが、ポストシーズンでは1916年に1試合、1918年に2試合、計3試合で先発登板している。しかし、いずれの試合でも本塁打を放つことはなかった。当時、ルースが登板した際の打順は2試合が9番。そのときの打撃成績は8打数0安打、4三振、1打点。残る1試合では6番を打ち、2打数1安打2打点――唯一のヒットは三塁打だった。

 チームメートのマックス・マンシー三塁手は、試合後にこう語った。

「いつか年を取って、子どもたちに"これまでで一番すごい試合は何だった?"と聞かれたら、この日の映像を見せるつもりだよ。今日の翔平は、史上最高のパフォーマンスを見せた。100年前に何があったかは知らないけど、これは間違いなく、私が見たなかで最高だった」

 ベッツ遊撃手も感嘆の言葉を口にした。

「まるで俺たちはシカゴ・ブルズで、彼(大谷)はマイケル・ジョーダンみたいだった」

 そんな称賛の嵐のなかでも、大谷はいつもどおり紳士的だった。試合後の地区優勝シリーズMVP会見では、冷静に自身を見つめていた。

「ここ数日、いい感覚で打てているなとは思っていますけど、そもそも"投げて打つ試合"のサンプルサイズが小さいので、数字の偏りが出やすいのかなと。それが悪い方向に出ていたのかなという印象です」

 キャリアの中でもトップに入るパフォーマンスか? その問いには、「トータルで見たらそうかなとは思うんですけど、7回にマウンドに行って、ふたりランナーを残したままアウトを取れずに降板しているので。そこを抑えきれれば完璧だったのかなと思います」。

 完璧を求める姿勢。その静かな言葉の裏に、なお燃え続ける炎が見える。

 10月17日、大谷火山はついに大噴火を迎えた。だが、噴煙はまだ収まってはいない。火山ガスは放出を続け、地熱活動は衰えを知らない。この勢いのまま、ワールドシリーズへと向かう。そしてその先に、スタージェルの最長弾「507フィート(約154.5メートル)」を越える瞬間が待っているかもしれない。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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