高校で野球を終えるはずが...元プロ監督、熱血部長に導かれ覚醒。呉港・田中多聞は高校通算48本塁打のドラフト候補になった (6ページ目)

  • 井上幸太●文・写真 text & photo by Inoue Kota

「今までなら仕留められていたボールを擦ってしまったり、焦って力んだり......。夏の成績は論外でした。夏の甲子園は見たくなかったので、まったく見ませんでした。実家に帰省した時も、家のテレビで甲子園がついていたら替えたくらい。完敗していたら、また違ったと思うんですが、勝てる展開なのに勝ちきれなかった。自分が万全で打てていたらとも考えてしまって、見る気になれませんでした」

 夏休みを終え、寮に戻ってからは、夏までの早朝スイングを再開させた。その姿勢に片岡も目を細めた。

「ドラフトは(10月)20日ですけど、入るつもりでそれ以前から準備していないと間に合わない。入ることが目的ではなくて、やっぱり活躍せないかんのでね。想いをもって、行動に移してやりきったのは間違いないので、そういうところはこれからもやっていってほしい」

 記事で使おうと、片岡、朝山、田中の3ショットの写真撮影を打診したが、朝山は「監督との2ショットでお願いします。片岡監督あっての田中多聞なんで」と丁重に断られた。そしてドラフトが近づくなか、朝山はしみじみと物思いにふける。

「片岡監督が辛抱強く見守ってくれたから、今があると思うんですよね。ほかのチームだったら、もっと苦戦して終わったんじゃないかなと思います。周りの先生方も、前は『無理やろ』『プロに行けるって本当なん?』という雰囲気があったんですけど、今は学校中が多聞にプロに行ってほしいと思うようになっています。本当に"運命の日"ではないですけど、いい結果になってほしいですね」

 田中はこう抱負を述べる。

「プロでは、誰かを目標にするよりも、目標とされるような選手になりたいです。『三拍子タイプよりも、ひとつ抜き出た長所がある選手のほうが成功する』とも言われるんですが、走攻守すべてが飛び抜けていたら、関係なく結果を残せるはず。そんな選手になりたい」

 素質を見出し、声をかけた前監督、プロに行ける存在と信じ、じっくりと見守った現監督の片岡、本物の努力を教えた朝山、そして逃げずに練習に励んだ田中本人。誰かひとりの"本気"が欠けていたら、間違いなく今の姿はなかっただろう。

 高水準の走攻守に加え、野球に対する貪欲さの"四拍子"を兼ね備えた選手として、プロの世界へ飛び込む。

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