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高校で野球を終えるはずが...元プロ監督、熱血部長に導かれ覚醒。呉港・田中多聞は高校通算48本塁打のドラフト候補になった (3ページ目)

  • 井上幸太●文・写真 text & photo by Inoue Kota

田中多聞(写真左)と元プロの片岡新之介監督田中多聞(写真左)と元プロの片岡新之介監督この記事に関連する写真を見る「多聞が入学したころから、いい素材だとは思っていました。ただ、自分はアマチュアで終わった人間。プロの基準がはっきりわかっていなかったんですが、プロを深く知る片岡監督に聞いても、『プロに行ける素材よ』と。そう聞いてから、ずっと『気持ちをはっきりさせて、取り組ませないといけないな』とは思っていました」

 昨秋の公式戦を終えてしばらくした、ある日の練習のこと。グラウンドでトス打撃をする選手に「ちょっと代わって」と声をかけ、少しふざけた雰囲気で練習をする田中の姿が朝山の逆鱗に触れた。再び朝山。

「多聞は練習をやらないタイプではなかったですが、秋に負けて気が抜けているような、遊び半分でやっているように見えました。それで『そんな気ぃ入ってない練習するんやったら邪魔や!』と言ったのを覚えています」

 これに田中は「『は?』と納得していないような顔」(朝山)を浮かべ、しばし口論に発展した。

「なんでそこまで言われなあかんのすか!」

「中途半端や言うてるんや!」

 コーチが仲裁に入るほど、互いにヒートアップし、強い言葉をぶつけ合った。上下関係が重要視される体育会、教師と生徒の関係性としては決して褒められるやりとりではないかもしれないが、朝山は「やっと胸の内を見せてきたな」と、ある種のうれしさを感じていた。

朝6時からの1500スイング

 そして、互いに冷静さを取り戻すと、こう田中に声をかけた。

「それだけ気持ち出せるんやったら、もっとできるわ」

 すかさず朝山は、片岡に「多聞に素振りをさそうと思ってるんですが、いいですか?」と、かねてから温めていたスイング強化練習のスタート持ちかける。片岡の許可を得て、田中本人に打診すると、二つ返事で「やります」と答えた。

 そうして、10月初旬から朝6時にグラウンドに出て、素振りに励む日々が始まった。試合で使う金属バットよりも長くて重い、120センチ、1100グラムの竹バットを黙々と振り込んだ。朝山が言う。

「朝6時にグラウンドに出て、軽くアップをしてから振り始めると、寮の朝食の時間までに700本くらい振れます。朝食を終えて、1限目の授業が始まるまでに、今度はティーを打ったり、歩きながら振るドリルをやったり。そうやって、1日約1500本振りました」

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