あの北京五輪を彷彿とさせる大熱投。上野由岐子がレジェンドであり続ける理由 (2ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • photo by Jiji Photo

 一流アスリートほど"自分の体"に敏感だ。そして自分の求めていることを、第三者へ的確に伝えることができる。これまで多くのアスリートを取材してきたが、その差は非常に大きい。

「じゃあ、左側を上にして寝転んで」

 上野はその指示に従い、床に置かれたマットの上に横たわった。チーム宿舎の一室で、体のケアが始まった。

 上野が言う「先生」とは、『鴻江スポーツアカデミー』の代表でアスリートコンサルタントの鴻江寿治(こうのえ・ひさお)だ。さまざまな施術やトレーニングのノウハウから"鴻江理論"を確立し、それに基づいた"骨幹理論"を提唱。人間の体は、うで体(猫背型)とあし体(反り腰型)に分かれており、それぞれに合った体の使い方をすることでケガの予防やパフォーマンスの向上につながると声を上げる。上野と鴻江は北京五輪の前年に出会い、もう10年以上の付き合いになる。

 1時間半ほど体のバランスを整え、元の自分の形に戻していく。その途中で投球フォームの話になった。鴻江のアドバイスを受けた上野がすっと立ち上がると、部屋のなかでシャドーピッチングを始めた。

「あっ、なんかいい感じです」

 表情がほころぶ。お腹の前にセットした両手を、投球動作に入る前にポンと一度浮かしてみた。その動作を入れただけで、上半身と下半身のバランスが合致。リズムもよくなり、なにより投げる方向に対しての推進力が軽めのシャドーピッチングにもかかわらず、段違いに増したように見えた。

 そして翌日、上野はぶっつけ本番で、その投げ方をしてマウンドに立っていた。

「上野さんのすごいところは、常に高みを目指しているところです。だから現状に満足せず、いつもチャレンジする。それが困難であっても、カベを乗り越えることを楽しんでいるんです」

 そう語るのは『鴻江スポーツアカデミー』のスタッフで、上野が所属するビックカメラ高崎のチームトレーナーも務める佐藤大輔だ。彼もまた、10年以上、上野をサポートし続けている。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る