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佐々木朗希の163キロを捕った男の真実。
指が裂けたのはフェイクニュース (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 当時を思えば、甲子園での藤田の落ち着いたキャッチングは別ものに見えた。上達したにしては、短期間すぎる。春から何があったのかを藤田本人に聞くために、岐阜県瑞浪(みずなみ)市にある中京学院大中京の硬式野球部グラウンドを訪れた。

「夏の大会の途中から、守備でゲームをつくっていく感覚をつかめたような気がします。それ以降、ピッチャーが誰であっても配球がポンポンはまっていきました」

 全国ベスト4と大躍進した夏の甲子園が終わって1カ月あまり。やや髪も伸び、大人びたムードになった藤田は快く取材に応じてくれた。

 春の体験を通して、キャッチングを磨いたのではないか----。その仮説をぶつけると、藤田の顔はパッと明るくなった。

「キャッチングはめちゃくちゃ練習したんです。今までやってきたことが、4月の合宿でまったく通用しなかった。このままじゃダメだと思って、捕球姿勢から全部やり直したんです」

 やはり、仮説は当たっていた。では、藤田はどのようにして捕球技術を磨いたのか。そのことを聞く前に、藤田自身が4月6日の佐々木のボールをどう感じていたのかを知る必要がある。時計の針を5カ月以上前に巻き戻してみよう。

 その日、紅白戦は午前中と午後の2試合が行なわれた。藤田は午後の先発投手である佐々木とバッテリーを組むことが言い渡されていた。

 当然、その時点で超高校級として有名だった佐々木のことは知っていた。それでも、球種や配球パターンまではわからない。藤田はメインで投げたい球種と決め球に使いたい球種を佐々木に尋ねた。佐々木は「真っすぐで押して、フォークで決めたい」と答えた。それは藤田の予想どおりの答えだった。

 初めて間近に見る佐々木という人間は、藤田の目には「不思議なオーラがある」と映った。自分を大きく見せようという雰囲気は微塵もないのに、大物感が底光りしているように感じた。

「だいたい高校生は『自分はすごいんだ』って大きく見せようとするじゃないですか。でも、佐々木にはそれがない。それなのに、ほかのヤツとは全然違うオーラがあるんです。不思議な感じでしたね」

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