2019.10.01

佐々木朗希の163キロを捕った男の真実。
指が裂けたのはフェイクニュース

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 今夏の甲子園を見ていて、少し不思議に感じたシーンがあった。中京学院大中京(岐阜)の捕手・藤田健斗のキャッチングが見違えるように上達していたのだ。

 ミットが動かず、捕球点でピタッと止まる。ワンバウンドのボールも確実に前で止める。藤田はもともとスローイングのいい捕手として知られていたが、そこまでキャッチングがうまいイメージはなかった。高校野球に詳しい知人との間でも、「藤田のキャッチングがうまくなった」ということは話題になった。

攻守でチームを牽引し、夏の甲子園ベスト4に貢献した中京学院大中京の藤田健斗 私の頭のなかである仮説が浮かんだ。もしかしたら、藤田は「163キロ体験」を経てキャッチングを磨いたのではないか……と。

 藤田の名前が一気に全国へと知れ渡ったのは、今春のことだった。枕詞は「163キロを捕った男」だ。

 4月6日、侍ジャパンU-18代表候補合宿での紅白戦。藤田は怪物・佐々木朗希(大船渡)とバッテリーを組んだ。その日、佐々木はバックネット裏のスカウトのスピードガンで自己最速の163キロを叩き出した。

 私も紅白戦を現地で見ていた。率直に感じたのは、「藤田が死んでしまうんじゃないか」という恐怖だった。

 佐々木は身長190センチ、体重89キロと大きく、小高いマウンドに立つとさらに巨大に見える。本塁までの18.44メートルが短く感じられ、投げつける球はとんでもなく速く、強い。まるで至近距離から鉄球を投げつけているようで、捕手にとっては拷問に近い剛球だった。

 そして藤田はストレート以上に変化球にてこずっていた。ストレートこそかろうじて捕球していたものの、スライダーやフォークはたどたどしくミットを動かし、ワンバウンドするボールはほとんど止められなかった。

 1イニング目は三者三振。2イニング目は無死一塁の状態でスタートする変則方式だったが、一塁走者の紅林弘太郎(駿河総合)は藤田が変化球を止められなかったため、労せず三塁まで進んだ。それでも、佐々木が三者三振に抑え失点はゼロ。「圧巻」としか言いようがない投球だった。