五輪に二度出場の谷口浩美は、昨年1月に病魔に襲われるも「マラソンのおかげで命を救われた」
2017年には地元の宮崎大学の特別教授に就任(現在は退任)。教員になるという大学時代の夢もかなえた(写真/本人提供)
【不定期連載】五輪の42.195km レジェンドランナーの記憶.1
谷口浩美さん(後編)
日本が誇るレジェンドランナーの記憶をたどる本連載。今回は1992年バルセロナ五輪後に一躍、時の人となった谷口浩美さん。全3回のインタビュー後編は、「こけちゃいました」の後日談、自身二度目の五輪となる1996年アトランタ五輪への挑戦、引退後にあらためて感じたマラソンの魅力を聞いた。
【目の前の座席の女性が顔を上げた瞬間、「あっ!」】
「こけちゃいました」
バルセロナ五輪、男子マラソンのレース後のインタビューの際、谷口浩美は笑顔でそう答えた。その表情と素直な言葉に多くの国民が好感を抱き、谷口は帰国後、一躍、時の人になった。連日、ワイドショーや夕方のニュースで転倒シーンとレース後のインタビューが流れ、国民の間に「谷口浩美」が浸透した。
「東京に行って電車に乗った時、目の前の座席で本を読んでいた女性が上を向いて、私と目が合った瞬間に『あっ!』て言うんですよ。『あれ、東京に親戚はいなかったよな......』って思っていると、『こけちゃった人だ!』って言われて(苦笑)。普通の女性まで僕の名前を知っているんだと思うと、うれしいというよりも怖いなとなって、食事以外はホテルから外に出歩くことがなくなりました」
8位入賞の谷口のほか、銀メダルを獲得した森下広一、4位に入った中山竹通と、バルセロナ五輪のマラソンに出場した3人全員が入賞したことに、日本は沸き立っていた。
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著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。