箱根出場をわずか1秒差で決めた順天堂大 シード権獲得へエース浅井は「本戦で借りを返す」 (4ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

 浅井も変化を感じたという。

「このミーティングのあと、チームの一体感というのを感じました。また、自分が怪我からチームに復帰した時は、以前と違うなというのを改めて感じました。チームとして戦う意識が芽生えていて、それを強く感じました。あとは自分が復帰してきた時、どれだけチームを盛り上げるかというのを考えていました」

 主軸が8月中旬に復帰し、チームとしてまとまっていくなか、パワハラ問題なども起こったが、長門監督を中心に今井、田中のコーチ陣がチームを支えた。

 服部主将は、コーチのふたりの存在が大きいという。

「たとえば、声掛けも監督だけの1回ではなく、コーチからも掛けてもらえますし、田中コーチは一緒に走ってくださって、走り終わったあと、もっとこうしたほうがいいというアドバイスをしてくださいます。それはすごくプラスになりました」

 全日本の予選会後、言い合える環境を作り、エースの帰還、コーチの支えなどでチームを再建し、箱根の予選会を突破した。

 長門監督は、「ようやく光が見えてきた」と言う。

「全日本予選の時は自信が崩れ、積み重ねてきたものが崩れた感じになりました。でも、入って来たふたりのコーチがいろんな声をかけて支えてくれましたし、夏合宿が苦しかったなか、走って乗り越えてきたものが少しずつ形になり始めているのかなと思います」

 今回の予選会にあたって、長門監督は「1秒の大切さ、1歩の大切さ」を説いてきた。この暑さになって、より1秒が重要になる。「最後は僅差になるから諦めずに1秒を大切に走ってほしい」と伝えた。

 その言葉が活きた。

 11位の東京農大との差は、わずか1秒だった。

 選手たちは泣き、笑い、箱根出場を喜んだ。だが、本戦を考えると喜んでばかりもいられない。10位通過ということはシード校を含めて20番目ということになる。ここから10位内に入り、シード権を獲得するのは容易ではない。

 長門監督も「本戦はより厳しい戦いになります」と表情を引き締めた。

「選手にも言いましたけど、今の順天堂はまだ発展途上の状況です。ただ、彼らのいい状態を披露できるのは箱根駅伝だと思うので、それまでに戦う準備をしていきたいと思います」

 1秒差で勝って得た箱根で順大は、どんな走りを見せるのだろうか――。

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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