マラソン鈴木亜由子がパリ五輪で狙う世界との真っ向勝負「最低でも日本記録を破る走力がないと戦えない」 (2ページ目)
再スタートをきるにあたって、鈴木は東京五輪を振り返り、競技への意識や練習について考え直した。
「東京五輪で勝った選手、結果を出した選手は、緊張とか全部を含めてレースを楽しんでいるなぁって思ったんです。そこで自分の力を出すこと以外は無心になれる人が最後は残るのかなって。やっぱり楽しむことが大事だなって改めて思いました」
レース前は誰しも緊張するものだが、それを過度に感じるか、それも含めてレースを楽しむ気持ちでいられるかで、走りに及ぼす影響はかなり異なってくる。前者はストレスになり、体を硬くし、差し込み(脇腹痛)などを引き起こす引き金になりかねず、後者はリラックスして自分の走りに入っていける。鈴木は「難しいんですけどね」と苦笑するが、それでもそういった意識で臨むことは決してマイナスにはならない。
もうひとつの気づきは、「自分を客観的に見ることの大切さ」だ。
「私は、今まで練習でつらくてもしんどくても気持ちでカバーしてきました。きついことに、わりと鈍感だったかもしれません。でも、最近は冷静に『今、疲れているなぁ』ってわかってきたし、その状態を受け入れられるようになりました。前よりも客観的に自分の身体の状態を感じられるようになったので、練習前の準備だったりケアは、今まで以上にかなり念入りにしていますね。東京五輪の反省からも、質の高い練習をしないと結果は出ないと理解しているので、現状の疲労具合を把握して練習を行なったあとは、ケガのリスクを抑えるために素早くリカバリーするという当たり前のことを、丁寧に着実にやっていくようにしています」
2022年は例年どおりトラックからスタートしたが、結果が目標タイムよりも下回ることが多く、「思ったよりも出ないなぁ」と確固たる手応えを感じられずにいた。東京五輪以来、マラソンは走っておらず、2023年のMGCに向けては出場権獲得だけではなく、何かしらの自信を得たいと考えた。そうしてエントリ―したのが、2022年9月のベルリンマラソンだった。
「このままでは終わりたくない、今までの弱い自分を越えたいと思っていました。それにタイムを出して、自信をつけたいという思いがあったので、走ることを決めました。レース前の練習はこれまでと異なり、質の高い練習も多く、調整期間では疲労も感じたことからレース前は少し消極的になりました。それでも大幅に自己ベストを更新できたので、再スタートという意味でもこのレースは本当に大きな1本だったと思います」
鈴木は、自己ベストをなんと6分30秒も更新する2時間22分02秒のタイムでベルリンを駆け抜け、MGC出場権を一発で獲得した。さらに22分台で走ったスピード感を体に染み込ませ、ここからさらにタイムを短縮できるという手応えも得た。
それは今年3月の名古屋ウィメンズマラソンで実現されることになる。
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