マラソン鈴木亜由子がパリ五輪で狙う世界との真っ向勝負「最低でも日本記録を破る走力がないと戦えない」 (3ページ目)
MGCの7カ月前となる名古屋ウィメンズマラソンは、鈴木にとっては大きなチャレンジだった。これまで冬の期間は故障することが多く、冬のマラソンには不安と苦手意識が働いていた。走り込んだ時、ケガしてしまうんじゃないかという不安が大きかったのだ。
一方で、地元・名古屋でのレースなので、これまでの恩返しの意味も込めて、選手として一番旬の時期に挑戦したほうがいいのではないかと監督から提案されていた。そのうえで、キロ3分20秒ペースでいききれなかったベルリンマラソンでの反省を活かして、今度はそのペースを順守して、再度、自己ベストを更新し、MGCにつなげたいという狙いもあった。
「結果うんぬんよりも自分の試したことがレースでできるかどうか」
その気持ちで鈴木は、積極的にレースを展開した。
東京五輪でどっちつかずのレースをしてしまった鈴木の姿は、どこにもなかった。自身5回目となるマラソンで2時間21分52秒の自己ベストを更新。2時間18分08秒で優勝したルース・チェプンゲティッチ(ケニア)に次ぐ、日本人トップの2位に入り、自身納得のいくレースができた。
「1位との差はかなりあったので、まだまだと思いながらも着実にマラソン選手としても経験値を高められました。これまで、トラックのスピードというのをあまり活かしきれていないところがあったんですが、名古屋ではトラックで走るリズム感でマラソンを最後まで走れました。その手応えは、すごく大きかったですね」
トラックで磨いてきたスピードが溶け込み、ようやく自分のイメージどおりの走りがマラソンで実現できるようになった。それは、MGCに向けて手応えというよりも大きな自信につながった。
2018年のマラソンデビューから5年。
五輪マラソンランナーの鈴木亜由子は、2度目のMGCの舞台に立ち、パリ五輪を狙いにいく。
「前回、勝ち抜いたという経験は、私の強みだと思っています。ただ、前回は結果を意識しすぎて緊張で硬くなってしまった。今回もたぶん緊張はすると思いますが、この舞台に立って挑戦できるのは幸せなことですし、それを噛みしめつつ、緊張も楽しみたい。そのくらいの余裕をもってスタートラインに立ちたいですね」
東京五輪で得た、勝つ選手の条件を鈴木は踏んでいこうとしている。震えるような緊張感を楽しむことに変換できれば、髙橋監督が「暑さと本番にめっぽう強い」と太鼓判を押しているように、前回同様、代表内定を勝ちとることができるだろう。
「今回のコースは最後、坂なんですよね。そこは、力強く上っていきたいですね。そうして国立競技場にカッコよく帰ってきたい(笑)。前回のMGCでは、3位とはギリギリ(僅差)だし、脚に力がなくやっとのことでゴールラインを踏んだので、この4年間の成長を感じられるよう、力強い足どりでゴールしたいです」
それが実現できれば、リオ、東京に続いて3度目の五輪になる。
「過去2回の五輪や世界陸上で入賞できなかった悔しい思いは今もあります。世界との距離は、まだ離れていると思いますが、五輪は夏ですし、コースも厳しいと聞いています。五輪本番は選手のベストタイムだけでは勝敗を予測できない特別な舞台。まだまだ私にもやりようはあると思っています。ただ、最低でも日本記録を破る走力がないとさすがに戦えないと思うので、まずはそこを目指して準備していきたいですね」
鈴木には、東京五輪の二の舞は演じないという覚悟が見てとれる。パリではアフリカ勢を相手に真っ向勝負する姿が見られるはずだ。
「パリ五輪は、競技人生の集大成になると思いますし、ひとつの大きな節目になると思います。MGCに向けても、それまでの1日1日を一生懸命に生き抜くことが先につながるんじゃないかなと思っています」
(おわり)
PROFILE
鈴木亜由子(すずき・あゆこ)
1991年10月8日生まれ。愛知県出身。豊城中(愛知)、時習館高(愛知)、名古屋大学を経て2014年、日本郵政に所属。オリンピックは2016年リオ大会、2021年東京大会に出場。世界選手権は2015年北京大会、2017年ロンドン大会に出場。マラソンのベスト記録は2時間21分52秒(2023年3月名古屋ウィメンズマラソン)。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。
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