ロコ・ソラーレ吉田知那美が「大舞台に挑む時にこそ、心にある」という本橋麻里の「金言」 (2ページ目)
彼女は今シーズン限りで次のキャリアへ進む決断を表明していますが、10年ほど前に癌を患って、そこから復帰して出場した2016年の世界選手権で世界一へ向けてのコメントを求められ、「絶対に勝ちたい。世界一になる瞬間を経験したい。でも、負けても世界は終わらないわ」と笑顔で語っていました。
彼女が語ることには凄みがありますし、本当にいろいろなことが起こるのが人生です。彼女の苦しみや喜びには及びませんが、人生のなかにあるカーリング、という位置づけが私にも備わった瞬間だったかもしれません。
もちろん、ストイックにトレーニングをすることは、競技者として当然だと考えています。でも同時に、カーリングを自分のキャリアの一部として捉えてもいいのかな、と思えるようになりました。
ロコ・ソラーレで言えば、さっちゃん(藤澤五月)がアロマの資格を取得していますが、そうやってカーリングを通して語学や栄養学、心理学などに触れ、勉強の機会をもらえているので、競技生活を過ごしながら物事の視野を広げたり、会いたい人に会ったりすることが、麻里ちゃんが言ってくれた「カーリングを利用する」という表現に近いのかもしれません。
今回の世界選手権も、なんといっても世界中のトップチームが集まる大会ですから、きっと負けてしまう試合も、ショットが決まらないことも、調子が上がらない時間もあると覚悟はしています。
でも、アイリーンが言ったように「It's not the end of the world.」ですし、そういう苦しい時にこそ、麻里ちゃんの言葉を改めて咀嚼することで、ひとつ深呼吸ができて、気持ちに余裕が持てます。だからいつも、大舞台に挑む時にこそ、心にこの言葉があります。
世界選手権に行く前に、ちょっとだけ麻里ちゃんと話しました。主婦同士の会話とか、本当に他愛もない話ばかりでした。でも麻里ちゃんとどうでもいい話をすることが、私にとっていちばんリラックスできる時間のひとつで、何かに向かう気力の源だったりするんです。
私の人生のなかにある大切なカーリング。せっかくその大きな舞台に立てるのですから目一杯、楽しんできます。
世界女子カーリング選手権で奮闘している日本女子代表(ロコ・ソラーレ)の面々。photo by (C)JCA IDEこの記事に関連する写真を見る吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日生まれ。北海道北見市出身。幼少の頃からカーリングをはじめ、常呂中学校時代に日本選手権で3位になるなどして脚光を浴びる。2011年、北海道銀行フォルティウス(当時)入り。2014年ソチ五輪に出場し、5位入賞に貢献。その後、2014年6月にロコ ・ソラーレに加入。2016年世界選手権で準優勝という快挙を遂げると、2018年平昌五輪で銅メダル、2022年北京五輪で銀メダルを獲得した。2022年夏に結婚。趣味は料理で特技は食べっぷりと飲みっぷり。
フォトギャラリーを見る
2 / 2