検索

【プロレス】アントニオ猪木がパキスタンで油まみれの男と対戦 藤原喜明が振り返る猪木の強運 (3ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 東京スポーツ/アフロ

【猪木を救った勘違い】

 緊迫の闘いは、3ラウンド1分5秒で決着がついた。猪木がペールワンの左腕をアームロックで極めた。しかし、ペールワンはギブアップせず左肩を脱臼。猪木自らドクターストップをする形で勝利した。藤原は、ペールワンが脱臼した時の音を聞いた。

「猪木さんが相手を倒してアームロックの状態に入った。俺は、もうちょっと左腕を肩に深く入れればいいと思ったんだけど、その瞬間に『ゴク』って音が聞こえたよ」

 母国の英雄が敗れ、スタジアムは騒然となった。そこで藤原はとっさの行動に出た。

「観衆が総立ちになったんだけど、そのなかに銃を持っているヤツがいるかもしれない。俺は『猪木さんが撃たれるかもしれない』と思って、猪木さんを守るために前に立ったんだ」

 緊迫のリング上で、猪木は両手を上げた。後年、代名詞となる「ダァーッ」のポーズのように腕を天に突き上げたが、猪木はそれをゆっくりと下ろした。

「猪木さんが手を上げたら、スタジアムがスーッと静かになったんだ。パキスタンはイスラム教の国だから、猪木さんが神に祈りを捧げたと思ったらしいんだよ。あとで現地の人に聞いた話では、『あれは神様の試合であり、猪木さんはイスラム教へ深い敬意を抱いていることを感じた』と言ってた。

 だから、そういう人に乱暴をしちゃいけないって思って静かになったんだろうな。猪木さんにしてみれば、いつもの試合が終わった時と同じような行動をしただけだと思う。だけど、それをパキスタンの人たちは、イスラム教への信仰と勘違いしたんだな。あの人は、そういう運を持ってたよ」

 ペールワンとの闘いから、今年で50年目。藤原は、当時に思いを馳せた。

「試合前も勝ったあとも、不気味なのは変わらなかった。そういう国で冷静に闘えると思うか? だけど、猪木さんは闘ったんだよ。そして勝ったんだ。あの精神力、やっぱり"博打打ち"のそれだよな」

3 / 4

キーワード

このページのトップに戻る