【プロレス】アントニオ猪木がパキスタンで油まみれの男と対戦 藤原喜明が振り返る猪木の強運 (2ページ目)
【不気味な場所で、情報がまったくない敵との闘い】
試合は、5分6ラウンドの格闘技ルール。未知の国での闘いを前にした猪木が、控室で藤原につぶやいたことがあるという。
「控室の床は土間で、コンクリートの囲いがあるだけの殺風景な部屋だった。試合前、そこに猪木さんとふたりきりになった時間があって、イスにポツンと座った猪木さんが『何で俺、こんなことしなきゃならないんだよ』ってつぶやいたんだよ。俺は内心、『アンタが決めたんだろ』って思ったけど、そんなこと口に出せるわけないからな。黙って聞いてたよ。
アリ戦で莫大な借金を抱えたから、やらなくちゃいけない試合だったんだな。だけど、あんな言葉を俺に言ったってことは、猪木さんも本心では『来るんじゃなかった』と思ったかもしれない。それほど不気味な国だったよ」
対戦相手のペールワンも不気味だった。どんな闘い方をするのか。得意技は何なのか......まったく情報がなかった。いざリングに上ると、ペールワンはビキニパンツ姿で、太鼓腹の男だった。
「腹がポコって出たヤツだったんだけど、何しろ情報がないから、強いんだか弱いんだかわからない。『見た目ではわからない能力があるんじゃないか?』って思うよな。闘いにおいて、相手のことを知らないのが一番怖いんだよ。
情報がないと、相手が自分よりどんなに小さかろうと恐れは出るもんなんだ。パキスタンの英雄とか呼ばれて、『今までにすごい試合をやってきた男だ』とか聞かされてたからな。しかもリングサイドには、銃を持った兵士がリングを取り囲んで、お客さんのほうを見ているんだ。すごい緊張感だった。だけど、猪木さんはいつもと同じだった。泰然自若の顔でリングに向かっていったよ」
ゴングが鳴ると、藤原は敵の"戦術"に気づいた。
「体中に油を塗ってたんだ。組むと滑るから、猪木さんはやりにくいに決まってるわな。だから、テクニックの応酬なんかなかった。やるかやられるか......そんな試合だった。向こうは猪木さんの腕に噛みついたりして必死だったし、逆に猪木さんも相手の目に指を入れたりしてたよ」
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