【女子プロレス】21歳になった元「中学生レスラー」愛海が語る葛藤と今後「自分も仙女を引っ張っていく力になりたい」 (4ページ目)
【第2試合で何を任されているか、考えなきゃいけない】
2021年7月、後楽園ホールで橋本千紘がマイクを持ちながら涙を流した時、愛海はセコンドからその姿を見ていた。悔しさと同時に、焦りもあったという。橋本ひとりが背負っているのではない。仙女が一丸となって前に進まなければいけない。その思いが強く残っている。
あれから4年。団体は大きく変わった。SNSの強化、YouTubeへの取り組み、ポスターデザインの刷新。かつては「プロレスでは絶対に負けない」と胸を張っていた仙女が、試合以外にも力を注いだ。その結果が、今年7月の満員の後楽園だった。場内の光景を見て、愛海は思わず泣いたという。
「今はまだ、橋本さんが団体を引っ張っていると思います。自分は水波(綾)さんとタッグを組んでいて、そこでも水波さんに引っ張ってもらっている。だからこそ、自分も仙女を引っ張っていく"力"になりたい。これからは後輩とタッグを組んで、自分が前に立つ経験をしたいんです」
さらに話は広がっていく。ゆくゆくは"世界のレスラー"になりたいという彼女に、私は「どうすれば世界のレスラーになれると思いますか?」と尋ねた。体を大きくするとか、表現力を磨くとか、そんな答えを想定していた。
だが、彼女の答えは意外だった。「英会話を習おうと思っています」――。
拍子抜けするような素直さに、思わず笑ってしまった。しかも英語を身につけたら、次はスペイン語を習いたいと言う。少しズレた感性だが、そこに彼女らしさが透けて見えた。
8月24日、ゼビオアリーナ仙台大会。愛海はセイディ・ギブスと組み、Chi Chi&スパイク・ニシムラ組との試合が組まれていた。試合順は今回も第2試合だ。セミやメインに立つ先輩たちとの差を、どう感じているのか。
「正直、悔しいです。でも、そのなかでもやれることはたくさんあると思うんですよ。自分が第2試合で何を任されているか、考えなきゃいけないと思う」
彼女の言葉は終始、淡々としていた。だがそれは、熱を隠すための静けさでもあるのだろう。
「仙台で会いましょう」――その約束を胸に、私はオンラインインタビューの画面を閉じた。私は純粋に、愛海という存在がどんな未来を切り拓くのかを見届けたいと思った。
【大会情報】
■『女子プロレスBIGSHOW in 仙台』
■日時:2025年9月23日(火祝)14:00開場 15:00開始
■会場:仙台サンプラザホール
■詳細:『女子プロレスBIGSHOW in 仙台』 | センダイガールズプロレスリング公式サイト
著者プロフィール
尾崎ムギ子 (おざき・むぎこ)
1982年4月11日、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業後、リクルートメディアコミュニケーションズに入社。求人広告制作に携わり、2008年にフリーライターとなる。プロレスの記事を中心に執筆し、著書に『最強レスラー数珠つなぎ』『女の答えはリングにある』(共にイースト・プレス刊)がある。
【写真】仙女 ゼビオアリーナ仙台大会 熱狂フォトギャラリー
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