【箱根駅伝2026】國學院大學の出雲駅伝2連覇を決定づけた"攻撃区間"と箱根駅伝総合優勝への布石
優勝を手繰りよせる区間賞の走りを見せた國學院大4区・辻原輝 photo by SportsPressJP/アフロ
後編:出雲駅伝2連覇に見る國學院大学の強さとは
学生三大駅伝の初戦となる出雲駅伝を2連覇で飾った國學院大学。前半3区間では各選手が持てる力を発揮し優勝への「最高のお膳立て」を整えると、前田康弘監督が"攻撃区間"と位置付けていた4区の辻原輝はその期待に応える快走を見せ、一気に優勝を手繰り寄せた。
【想定どおりですけど、選手がすごいですよ】
國學院大を率いる前田康弘監督のプランは、後半区間からも狂うことはなかった。
2位で襷を託された4区の辻原輝(3年)は、指揮官の期待にしっかり応えてみせた。慌てず、焦らず、先頭に立つミッションを遂行。入りの1kmから無理してスピードを上げることはない。早稲田大の佐々木哲(1年)に前へ出られても、自分のペースを維持。エンジの背中を捉えたのは2km付近。右手の時計に何度も目を落とし、ラップタイムを確認していた。
「(1kmを)2分45秒で押していくイメージでした。このペースでいくと決めていたので。気づけば、後ろがだんだんと離れていきました」
あっという間に独走体勢へ。学生三大駅伝で先頭を走るのは自身初めてのこと。中継車の後ろを走るのは、ずっと夢見ていた光景である。根っからの目立ちたがり屋なのだ。一定のペースで押していく走りは真骨頂ではあるものの、気分が乗れば、脚はさらに動く。3区で区間2位と快走した野中の奮起も大きな刺激になったという。6.2kmのコースを走り抜けたタイムは、区間新の17分20秒。2019年大会で青山学院大の神林勇太(現ユニクロ女子陸上競技部ディレクター)がマークした区間記録を4秒縮め、自身初の区間賞を獲得した。狙いどおりだった。
「今年の夏合宿はまったくうまくいかなかったので、出雲で区間新と区間賞を取って、復活したところをアピールしたかったんです」
前田監督が勝負のポイントに上げた"攻撃区間"の役割を果たし、優勝をぐっと手繰り寄せた。
経験に裏打ちされた直感とロジックを交え、戦略を立てる指揮官の口も滑らかになり、冗談まじりに「前田采配的中」と充実の笑みを浮かべていた。
「想定どおりですけど、選手がすごいですよ。サッカーと同じように全員が(後半勝負の)戦術をよく理解し、我慢するところで我慢し、勝負するところで勝負できました」
終盤は國學院の独壇場。2位と23秒差で襷をもらった5区の高山豪起(4年)は気を緩めることなく、得意の単独走でさらにリードを広げる。前田監督からキーマンに指名されていた高山は、最上級生らしく安定感のある走りを披露。区間賞を逃して「ツメの甘さが出ました」と少し悔いたが、区間2位は申し分のない働きだろう。後続に39秒差をつけて、アンカーへ。
最終6区を任された上原琉翔(4年)の仕事は、安全運転で仲間の汗が染み込んだ赤紫の襷をフィニッシュ地点まで運ぶだけだった。沖縄育ちのキャプテンは暑さにめっぽう強く、気温26度のタフなコンディションもものともしない。表情をほとんど崩さずに淡々とラップを刻んだ。出雲ドームが見える最後の直線に入ると、大歓声に応えるようにふっと口元を緩め、両手を広げてダブルピースでフィニッシュ。
「あれは2連覇を意識したんです。平林さん(清澄、現ロジスティード)が抜けて、前評判では中央さん、早稲田さんでしたが、自分たちは夏合宿から昨年以上の練習ができていたので、みんな自信を持ってスタートラインに立っていました。それが、出雲で勝てた一番の要因です」
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著者プロフィール
杉園昌之 (すぎぞの・まさゆき)
1977年生まれ。サッカー専門誌の編集記者を経て、通信社の運動記者としてサッカー、陸上競技、ボクシング、野球、ラグビーなど多くの競技を取材した。現在はジャンルを問わずにフリーランスで活動。

